マグカップの中のおしるこからは、湯気が立ち上っている。

「美味しい?」

隣から訊かれ、ナルトは「うん」と笑顔で頷いた。

上がって行かないかと言われ、悩んだ時間はものの五秒。
あっさり吸血鬼の屋敷に上がったナルトは十分も経たないうちに、希望のおしるこにありついていた。
屋敷は内部も広かったが、全体的にあまり明るい雰囲気ではなかった。
居間に通され、「ここに座って」と言われたソファによじ登るようにして座り、テーブルを前に細い足をぶらぶらさせながら待っていると、吸血鬼はちゃんとマグカップに入ったおしるこをナルトに持って来てくれた。
ナルトは大喜びでそれを受け取り、すぐさま口をつけて、吸血鬼はナルトのすぐ隣に座り、ナルトがおしるこを飲む様を眺めていた。

美味しいものを食べると、気が緩む。
ナルトはすっかり笑顔になり、うまいうまいとおしるこを口に入れ、男の質問にも素直に答える。

「小学……何年生?」

「にねんだってば」

「学校楽しい?」

「うん!でも、勉強は、あんまりすきじゃねぇけど」

「名前、何ていうの?」

自己紹介する時はちゃんと相手を見てしなさい、と常日頃、両親に教えられている。
その質問には、顔を向けて答えた。

「うずまきナルト、だってばよ!」

そのまますぐまたマグカップに口をつけようとして距離感を誤ってしまい、心の準備が出来ていない上唇と舌に熱々のおしるこが触れて、ナルトは「アチ!」と声をあげた。

「大丈夫?」

反射的に動いて手元が揺れ、マグカップの中のおしるこが外に飛び出して、ナルトの手や膝、膝の間のソファの布地にもかかった。
吸血鬼が急いでテーブルの上の手拭きを取って、ナルトの手や膝を拭う。
すぐに拭いてくれたからか火傷するまではなかったが、ナルトは眉尻を下げた。

「うん……でもソファも汚しちゃったってばよ」

「いいよ、ソファは。……けど、そこ座ってたら服が汚れるかもしれないから、こっちおいで」

おしるこがあと少し入ったマグカップを一旦取り上げて、吸血鬼はナルトの脇を持って抱えると、自分の膝の上にナルトを乗せた。
父親が良くしてくれることだ。
膝の上に乗せられて腹に手を回されても、ナルトはあまり気にせず「おしるこまだ飲むってば」と顎を上げてねだる。

「あとちょっとしか入ってないよ?」

「飲むってば」

肘置きに避難させていたマグカップを取った吸血鬼にそれを渡され、受け取って、またんまんまと口をつけた。
少し冷めたようだし、量もこぼしたせいで減ってしまったが、ほんわか暖かくなる旨味だ。

「おいしいってば!」

首を捻って後ろを振り返り、満面の笑みを向ける。
ふと目をやると、吸血鬼はうっすらと目を細め、微笑っていた。
笑っているのを初めて見たナルトはただでさえ大きな目を、いっそう大きく見開く。
そんなナルトの反応に、吸血鬼は不思議そうな顔をした。

「どうしたの?」

「……笑ってる、ってばよ」

「うん。……え?何かおかしい?」

おかしい。いや……おかしくはない。
吸血鬼が笑った顔は意外にもすごく優しくて、すごく素敵なものだった。でも。
ナルトは恐る恐ると口にした。

「……にいちゃん、きゅうけつき、だってばよ?」

「え?……」

今度は、吸血鬼の方が目を丸くする番だった。







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