ナルトはカカシの異変に気付いている。
危険も察知しているだろう。

「お前がそうしたいなら」

すぐにでも手を離してやる。

そう言うと、ナルトは緊張に強張った面持ちでゴキュ、と喉を鳴らした。

「か、帰んねえって言ったら、……どうなんの?」

「さあ、どうするかな。……キスぐらいはするかもね。今、欲求不満なんだよ」

「キ……キス?先生、相手が男でもそーゆうことすんのか?」

「まぁ、別に性別は気にしない方だから」

「……」

ナルトの戸惑いが甚く伝わってくる。
当然だ、上司で男のカカシにこんなことを言われたら。

尤もらしく言いながら、本当は出まかせだった。

引っ張り込んだのは、ナルトの来訪を拒んだ理由が一物が反応を示している為で、ナルト自身を拒んだわけじゃないと教えたかったからだ。
同性に惚れたのはナルトが初めてであり、過去に男をそういう対象に考えたことは一度もない。

本物のナルトを目の前にして、強引にでも組み敷き、突き挿れてしまいたい欲求が沸き起こっている。
それでも、それ以上の理性がその欲求を押し潰し、逃がしてやることはどうにか出来そうだった。
ナルトが何より大事だ。

これ以上不自然にナルトを避けることは出来ないから、ナルトに自分への警戒心を植え付ける。
危険人物だと思ってくれていい。
そうすればナルトは迂闊にカカシに寄らなくなる。

それでナルトを守ってやれる。


「……じゃあ、帰らねえ」

思い詰めたような顔で、カカシを見上げたナルトが言い放った。

心情を言い表すなら、ぽかん。その一言だ。
呆気にとられてナルトを見下ろした。
ナルトは睨むようにカカシを見ている。

自分を嫌うように、避けるように仕向け、介添えした。
表面上、選ばせる言い方をしながらもナルトが選べる選択肢は一つしかなかったはずだ。

「いや……、そうじゃないでしょ。お前、ちゃんと話聞い……」

肩を掴み、身体を離そうとしたカカシに逆い、ナルトが顔を寄せる。
ほんの一瞬。

「…………聞いてたってばよ」

沈黙の間、視界に入ったのは、ゼロ距離にある金色の睫毛で、布越しのカカシの唇に触れたのは、ナルトのそれだった。

『キスぐらいはするかもね』と脅したのはカカシの方なのに――ナルトの方からキスをした。

紅潮した顔で、強気な眼差し。
カカシが作り出した影分身では到底表せない本物のナルト。

言葉もなかった。

キスの動機が何なのか、確認するのはきっと無粋だ。
タコみたいに赤い顔や、いっぱいいっぱいで怒ったような表情を見れば――そもそも、キスするというその行動だけで――考察するのは難くない。

それが、カカシが望み、叶うはずがないと最初から諦めていたことだったとしても……


……今、口布を引き下ろして直に唇を合わせたカカシをナルトが受け入れている事実だけで充分だ。

腰を抱き寄せ、キスを深くすれば、頬はいっそう上気し、アンダーシャツを掴む手に力が篭った。

「カカシ先生」

離れた唇の合間で目を潤ませたナルトが呟いて、頭の片隅で、影分身が笑った気がした。













END(20111010)





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