「風呂に入るところだったって言ったろ。それはまた今度一緒に食うから」

「別に風呂くらい俺が居たって入ればいいじゃん。上がるの待っとくから」

相手がナルトでなければ蹴りでも入れて無理矢理ドアを閉めるのだが、ナルト相手だとそれは出来ず、カカシは辟易した。
ノブを引き戻そうとするカカシに逆らい、ドアに掴まり、抉じ開けようとするナルトが可愛くて、どうしようもなく厄介だ。

信頼を寄せてくれている。
信頼に応えられる師でありたいと思う。
思うだけで、カカシはそれが出来そうにない。

影分身の言う通り……

『カカシ先生、カカシ先生って……無邪気な顔して、あいつは全然分かってないよねぇ。あいつが慕ってる先生は、尤もな先生づらして、家では股間おっ勃ててるんだから』

それが本音だ。

「ナルト」

一際厳しい声で名前を呼ぶと、ナルトが眼を丸くした。

「都合が悪いって言ってるでしょ」

やるせなさをこらえた声は苛立ちに変換されて低く押し殺され、ナルトはびっくりしたように言葉に詰まり、眉を下げて笑った。

「な、何だよカカシ先生ってば。そんな怒んなくたっていいじゃん。分かったってばよ、んじゃ帰るからさ」

明らかに作った笑みだ。
引き攣った顔で笑うナルトに申し訳なさで胸が痛い。

ナルトのことだ。
本当にただ善意で、カカシを慕って、ラーメンを一緒に食おうとやって来たのだろう。
試作品を貰い、カカシの顔を思い浮かべてくれただけで、嬉しいことなのに。

だが、引き止めたところで興奮のおさまらない自分を見せることは出来ない。
やむを得ないとしか言いようがない。

「ラーメン、何個か置いていくってば。先生、食ってくれよ」

ガサガサとナルトがビニール袋を漁る。
渡されてしまっては一緒に食えない。
カカシが冷たく断ったから『一緒に食う』という選択肢はナルトの中でなくなってしまったのか。

ハイ、と麺とスープを掴んで差し出された手を眺め、カカシは見下ろした。
眼を細める。
微笑んだとかではなく、切なくて。

どっちにしろ、もう限界か。
こんな関係――時間の問題だ。

「!」

わっと声を上げ、ナルトがこちらに倒れ込んだ。
カカシが手を掴み、ドアの内側へと引っ張り込んだからだ。

「えっ、え、……え!!」

バサバサと音を立て、ナルトが握っていた麺やスープが床に落ちる。
勢いに任せてドアの背に押し付け、抱きしめると、あたふたと慌てふためき、「え」を連発したナルトはカカシに抱きしめられた状態で仰け反り、下に目をやった。

腰に当たるものが何なのかと確認している。
大きな目はこれまで以上に見開かれ、カカシを見た。
猛っているモノを視認すればそういう反応にもなるだろう。

「え、えーと……お、俺……よくないタイミングで来たん、だよな……?」

「……そうだな」

「か……帰った方がいい?」

ナルトを引っ張り込みはしたものの、このまま無理矢理犯してしまおうなどということは考えられない。
欲情はしても、泣き顔は見たくない。





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