「なんだってばよ!?俺のどこが」 「だってそうだろ!?男を誘うような目つきを覚えて、“キスぐらい”とか言って…!前なら絶対そんなこと言わなかったでしょ!」 「――…」 …頭にきた、のは確かなのだが。 言い返そうとしたナルトは、ナルト以上に怒った様子で珍しく声を荒げるカカシに、そんな怒りも吹っ飛んでしまう程驚いた。 だって、カカシはいつだって冷静沈着で、緊迫した任務時にすら、こんな風に怒鳴られたことはあまりなかった。 あまり、というか、正直なところ思い出せる限りでは、そんなこと一度だってなくて… 「……」 思わず呆気にとられて固まると、カカシが吊り上げていた目尻を僅かに下げる。 その手が伸びて、ひた、とナルトの頬に触れた。 「――頼むから、他のやつに軽々しく触らせたりするな…」 (え、と…) 苦しそうに、それでいて切なそうにカカシはナルトを見つめてくる。 こんな目を向けられたのは、初めてじゃない。 お色気の術で女体化したナルトに惚れた男たちは、誰もがこんな目を向けてきた。 ただ、ナルトは今、変化なんてしていないし、カカシは勿論ナルトが男だと知っているわけで。 「…や、やっぱカカシ先生今日なんかおかしいって…。それじゃ、まるで俺のこと好きみてーだってばよ」 頬に触れているカカシの熱を持った手が落ち着かなくて、外そうとその腕に手をかけた時。 「そうだよ」とカカシが言った。 「好きだよ」 (…………) その言葉が頭にうまく浸透せず、カカシの腕に手をかけたまま、ポカンとその顔を見つめる。 切れ長の目に、通った鼻筋、薄い唇。 目以外は見慣れないその顔は、それでも確かに左目に見慣れた傷痕がある。 確かに、カカシで。 「お前が好きだから、他のやつに気安く触られるのは耐えられない」 「…………」 ふざけた様子はカケラもなく、少し眉を寄せた、ごく真剣な表情でめちゃめちゃ男前なカカシにそう言われて、顔にみるみる血が上っていくのがナルトは自分でもわかった。 「ナル…」 「ちょ、ちょっと待った…!」 続けようとしたカカシを制止し、慌てて身を引く。 「おおお、お俺ってばよくわかんねーんだけど!」 「何が?」 だって、いきなりこんなことを言われて、いつから好きなのか、とかなんで好きなのか、とか、そもそも俺ってば男なんですけど、とか。 「だ、だから、その…」 「ハイ。どーぞ」 躊躇っていると、どうやらそれを察したらしいカカシは呆れた目ながらもナルトの言葉の先を促した。 「お…俺、男だってばよ?」 「そうだな、見ればわかるよ」 「そ、それに先生とはすげー歳だって離れてるってば」 「それも知ってる。…でも、好きなんだからしょーがないでしょ」 (しょーがないって…) そういう問題なのか?と、眉を下げて見上げると、カカシは表情を和らげた。 「ほんとに、お前ってニブいし、人の倍手ぇかかるし、賢くないしさ、自分でもなんでって思うけどね。どーしようもないんだよ」 「……」 何だか、言葉の端々に引っ掛かるものを感じるが、とりあえずここはスルーする。 「じゃあ…、いつから?俺、全然気づかなかったってば」 「だろうね。俺もお前が気づくとは期待してなかったよ。…ま、早く言うと、自来也様と修業に行く前からなんだけど」 「え…」 前へ 次へ戻る10/12 |