沈黙の後。

「…お前さ、あのお色気の術、前にも何回かしたことあるの?」

「え」

カカシに見惚れていたナルトは、眉を寄せたカカシにそう言われてハッと我に返った。

「え?えーと、まあ。何回かな…」

ひー、ふー、みー、よー…と指折り数えて続けると、「そんなに?」とカカシは眉間の皺を深くする。

「どうりで慣れた感じだと思ったよ…」

「あ。だろ?これってば結構便利でさあ、たいていのやつは皆コロッと騙されんだよな」

言いながら、ナルトは印を結ぶと、また先程の女性の姿になりカカシに妖艶な笑みを浮かべてみせた。
たいていのやつ、というかナルトが自来也との修業中、やむなくその術を使った時は全員が全員ナルトの虜になってくれて“男ってほんとアホだってば…”と自身も男なナルトが思った程だ。

「でもさあ、この姿結構デメリットってのもあって」

ナルトはカカシから離れ、ボンッとベッドに腰を下ろすとカカシを見上げた。

「たいてい襲われそうになるんだってば。だから、実は今日のオッサンなんてまだいい方だってばよ」

「いい方って…、お前今日だって襲われかけたでしょーが」

「そうだけど、まだキスとかはされなかったし」

ナルトが頭を掻きながら言うと、カカシは目を見開いた。

「“まだ”…?」

「うん。だってヒデー時はさ、キスは勿論だけど、マジでヤられそうになったりとか…。まあ、キスまでは何とか我慢できてもさ、ヤられるのは流石に我慢できねーっつーか」

今まであった数々の災難を思い出し、ナルトは愚痴る。
まあ、そういうわけなので基本的に“新・お色気の術”は封印気味だったりしたのだが。

だが…

「冗談でしょ?」と真顔のカカシに言われ、首を傾げた。

「え、だっていくら任務だからって普通男とヤるのは」

「キスさせたの?」

「……」

(あ、れ…?)

何だか、キスさせたのがいけなかったような雰囲気だ。
見下ろしてくるカカシの目が半端なく恐く、ナルトは顔を引き攣らせる。

「え…、そりゃ、まあ…。けど修業中のことだし仕方ねーってばよ。すっげー嫌だったけど、キスぐらい別に死ぬわけでも減るわけでもねーしさ」

ナルトがそこまで言うと、黙って聞いていたカカシが低く言った。

「じゃあ、俺にもさせてよ」

「…………は?」

ア然とするナルトに、カカシはナルトの身体を跨ぐようにしてベッドに膝を着き、上に乗り上げてくる。

「…カカシ先生?」

「死ぬわけでも減るわけでもないんだろ?…だったらいいじゃない」

「は?ぇ」

ナルトの肩に手をかけたカカシの、その唇が自分のそれに触れそうになって。

「む、無理!」

ようやく言われていることの意味が頭に浸透したナルトは、思いっきり顔を背けた。
ギリ、と肩に食い込む手の力の強さが痛い。

「…なんで。“キスぐらい”って言ったのはお前でしょ。他のやつにはさせといて、俺はダメなわけ?」

「だっ、だから、それは修業中のことだってば!今は違うだろ!」

「今もそうだと思えばいいじゃない」

「思えねーってば!カカシ先生、なんかおかしいってばよ!」

カカシの身体を押しやり、変化を解いて立ち上がると、

「おかしいのはお前でしょ」

苛立ったようにカカシに言われ、頭にきた。









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