夢  | ナノ


5位 御堂筋 今箱学寮で溺れる(萌え系漫画)


 今=作中の時間軸中とさせていただきました。すみません。
 御堂筋君の京都の言葉が難しすぎて、変なことになってますが許してください。


 お父さんの仕事の関係で、高校から京都で生活することになった。
 子どもである私の進学に時期をあわせて京都へ引越すことは前々から決まっていたので、心構えはしていたつもりだったけれど、やっぱり寂しいものは寂しい。
 そんな私の前に現われたのが、御堂筋君だった。
 すらりと長い四肢、大きな瞳、小さな頭、綺麗な歯並び。
 夏休み前の最後の登校日、今日も隣の席の御堂筋君をうっとりと見つめる。
 ちょっと口が悪くて、ちょっとそっけないけど、でも入学式の日に迷子になって半べそかいてた私を、罵りながらも京伏高校まで連れてきてくれたのは御堂筋君だ。今日抜き打ちで行われた小テストで二十九点とった私を、満点とった御堂筋君は虫けらを見るように見下していたけれど、そんなところも好き。
 馬鹿な私がいけないんだもの、明日からみっちり勉強する。
「御堂筋君って頭いいよねぇ、部活も忙しそうなのに、いつ勉強してるの?」
「高一の勉強なんて中学のおさらいみたいなもんや。ボクからしたらそないな点数とれる久瀬さんの頭ん中の方が分からんわ」
 背の高い御堂筋君の席は最後列、もちろん競争率は高いと思っていたのに、意外にも御堂筋君の隣の席を射止めた女子はあっさりと私に席を譲ってくれた。お陰で教室ではいつもルンルンだ。
「そうかなぁ。でも、御堂筋君に見直してもらえるように、夏休みに箱根で勉強することにする」
「箱根? なにしに行くん?」
 珍しく、私の雑談に御堂筋君が反応してくれた。
「私、元々は箱根に住んでたの。おばあちゃんちも箱根にあるんだ。ほら、来週から、箱根で自転車競技のおっきな大会あるんでしょ?だからその、御堂筋君の応え」
「久瀬さん箱根学園て知っとる?」
 ああ、思い切ってアピールしようと思ったのに遮られた。
「知ってるもなにも、中学は箱学だったけど」
「虫けらが役に立つ駒になるいうことも、あるんやなぁ」
 にいやり、と三日月になった瞳が私を見た。
 虫けらって……言っちゃう所も不器用で好き。
「御堂筋君て、笑うとアリスに出てくる猫みたい」
「はあ?」

 数日後、なぜか私は友人の箱学の制服を着て、友人の知り合いから借りた男子の制服を着た御堂筋君と箱学の敷地内を歩いていた。五ヶ月前まで通っていた中等部とは敷地自体が違うので、なんだか悪いことをしている気分だ。
「御堂筋君、何しに来たの?」
「ええから黙ってついて来ぃや。黙られひんのやったらもう制服あるんやし、久瀬さんがきやはる必要ないで」
 御堂筋君が、私を引き連れてなにがしたいのかが分からない。
 校舎から、今度は寮に入っていく御堂筋君の後を、私も追いかける。箱学の学生寮の規模は大きい、友達の話だと、寮生以外の出入りも多いようなので、滅多なことで侵入したことが露見することはないと思うけれど。
 共同スペースらしい食堂も、時間が中途半端なためか人の姿はほとんどない。夏休みの寮に残っている人間は部活か勉強に忙しい人たちなのだろうから、お昼すぎの寮に人影がないのも頷ける。
「男子寮はこっちか。共同なんはここまでみたいやし、久瀬さんは学食でなんか買うて座っとったらええわ」
 ほなな、と行ってしまいそうな御堂筋君のシャツの裾を掴む。夢中で首を横に振っていると、御堂筋君が大きくため息をついた。
「誰もいはらへんのやから、黙っとる必要ないやろ」
「私も行く! 見つかりそうになったら、私が囮になるし。もうすぐおっきな大会なんでしょ。問題起こしたら、出られないかもしれないじゃない」
「…それもそうやな。久瀬さんはけったいなお人やな」
 私の顔を珍妙なモノを見る目で見下ろして、その後あの大きな手で、私の頭を数回撫でてくれた。

 箱学生、案外セキュリティー甘い。というか無警戒というか。二分の一の確率で、寮個室のドアは施錠されていなかった。まあ、勝手に入る人間もいないのだろう、いや、むしろ勝手にどうぞというスタンスなのかもしれないけれど。プライベートを覗きまくってごめんなさい。痴女と後ろ指差されても仕方がない所業です。
 人の気配に気をつけながら、寮を回る御堂筋君は、しけとるわぁ、とため息をついた。
「収穫はここ来る前に聞いた新開いう奴のあれだけか」
 御堂筋君は残る最後の扉の向こうに人の気配がないかを確認してから、そっと扉を開ける。内装を見た瞬間、自転車とは関係ない人の部屋だと分かった。何分の一の大きさの秋葉原とかで売っているという美少女フィギュアがずらりと飾られていたからだ。
 御堂筋君も、がっかりしているだろうと思って見上げると、彼は何か一点に目を奪われていた。
「何かあるの?」
「マジカル☆ルンコちゃん(チルチル作画)二巻の、幻の限定特装版(書き下ろし漫画付)や」
「え?」
 なんの呪文?
「久瀬さん知らんの? アニメ版に忠実なチルチル作画のマジルンはマニアの間ではミルミル作画版よりもえらい評判が高いんや。しゃあさかい、人気が高うて限定版は予約も出来ひんかった。ボク発売日にアニ○イト並んだんやで。ほんでもよう手に入れられへんかったんや」
 知らんのと言われても。え、チルチルとミチルが、え?
「そんならボクこの本どっかで読んでから帰るさかい、久瀬さんどうする」
 どうするって、御堂筋君が帰らないのに帰るわけにもいかない。
「御堂筋君が帰るまで、いるよ」
「そうか」
 御堂筋君は、今までに見たこともないような優しい手つきで本棚からその本を抜き取った。
「必ず返すわ。ほな見つかるとうるさいから、外でるで」
 きっと、御堂筋君も浮かれていたんだろう。廊下にでて、階段を下りるところで、箱学の男子生徒と鉢合わせてしまった。
「え、じょ、女子ー!」
 今いるのは最上階である三階、その男子生徒は二階からあがってくるところだった。これでは下には逃げられない。
「(まかせて)」
 音にしないで、御堂筋君に告げた。仕方ない、これが私の役目なんだから。
「あー、お兄ちゃんの部屋どこかなーって忍び込んだら、この人に見つかっちゃって」
 御堂筋君を指さしながら、苦笑してみせる。
「なんだ、寮監のとこ行く途中だったのか」
 男子生徒は、あっさりと警戒を解いたようだった。
「まあ、おとなしく白状すれば、庭掃除くらいで済むさ」
 箱学生ならね。
「じゃあ、行こうか」
 御堂筋君が、私の二の腕を掴んで階段を降りようとする。その御堂筋君を、男子生徒は呼び止めた。
「そういやお前も見ない顔だけど、寮生じゃないよな」
 やばい。けっこうまずい。
「名前と、学年クラス、教えろよ」
「(逃げて)」
 再度、音に出さずに御堂筋君に告げた。それと同時に掴まれていた二の腕を振り解いて、廊下へと駆ける。
「あ、ちょっと待て! 逃げんな」
 男子生徒も当然追いかけてくる。唯一の救いは、男子生徒がスリッパなのでスピードが遅かったことだろうか。
 左に他の棟へと続いているらしい連絡通路、正面の突き当たりには階段がある。どっちにしよう、どっちなら時間が稼げる?
 とりあえず、下だろう。外にさえでられれば。
 左には曲がらず直進して、階段を下る。二階から更に下に降りようとしたところで、男子生徒が上ってくる声がした。はち合わせたらこっちにまで追われることになる。仕方がないので二階の廊下へ進路を変更して走った。また、今度は右手に渡り廊下。どうしよう。廊下の中程まで走って、思わず立ち止まってしまう。どっちへ行けばいいの。さっきのスリッパの男子生徒ももうすぐ来てしまう。
「ほんま、けったいなことする人やな」
 真横から聞こえた声に振り向くより先に、口元を覆われて、どこかの部屋に引きずり込まれた。カチャリ、と鍵をかける音がした。後ろから、抱きすくめられている。さっき聞こえたあの声を、私が聞き間違えるはずがない。
 御堂筋君だ。
「きみアホなんと違う?あないするスジきみにはないやんか」
 ぱっと私から手を離して、御堂筋君が言った。
 あと一分くらいぎゅっとしてくれてて良かったのに。
「だって、御堂筋君のこと、好きなんだもん」
「へぇへぇ」
 耳を小指でかいている様子からは、私の告白は本気で受け取ってもらえていないようだ。
「ホントだもん。入学式の日、半べそで迷子になってても誰も声かけてくれなくて、でも、御堂筋君だけ大丈夫かって声かけてくれた」
「ボクは大丈夫かて声かけたんやのうて、通り道でベソかくのやめてや、うざったいわぁ言うたんや」
 わお、御堂筋君の記憶力って素晴らしい。
「でも、私にはそう聞こえたの。嬉しかったんだ。それこそ、王子様みたいだって思った」
「ボクが王子様て、きもっ!目医者行かったらよろしいわ」
「痛っ!」
 ベチリとおでこを手のひらで叩かれた。御堂筋君はそのまま、靴を脱いで両手に靴を持つと、部屋の奥に進む。私も黙ってそれに続いた。カーテンの隙間からそっと外を窺ってから、御堂筋君はカーテンを両脇に大きく開けた。
「ボクらに気づいとるんは、まあだあいつだけみたいやな。寮監とやらに見つかったらえらいことなるやろから、こっから行くで」
「ここ二階だよ!?」
「入る前に確認したわ、この部屋の下あたりにチャリンコ置き場あるん」
 言うとおり、ベランダのすぐ外には自転車置き場の屋根がある。御堂筋君は、窓を開けて靴を履き直すと、ベランダの柵をひょいっと越えた。モワッとした湿度のある暑い空気が一瞬で体を包んだ。暑い。
「なに呆けとるの。置いてくで」
「あ、私スカートだから先に行ってて」
「アホか。そんなん言うてる場合と違うわ」
 仕方ない。もっとかわいいパンツはいてくるんだった。
 両手で柵を掴んで、両足でぴょいと飛んだ私の両脇を、足が柵を跨ごうとする前に、御堂筋君がしっかりと掴む。
「へ?」
「しゃあなしや」
 御堂筋君は腕の力で私を持ち上げると、柵の外側へ降ろしてくれた。細いのに、力持ちだなんて素敵!
「腕折れるか思うたわ、肥えすぎや」
「ですよねぇ。ごめんね、次のためにもあと十キロは痩せる」
「次なんて二度とごめんやわ」
 ベランダの三十cm程下には、自転車置き場の屋根がある。御堂筋君は、屋根にそっと降りてから、自転車置き場の脇に敷かれた芝生に降り立った。重力なんてないみたいな軽やかさだ。
 私もおっかなびっくり屋根に降り、屋根の隅へ。
 高い。御堂筋君の頭よりも何十cmも高い。
「足の裏地面にくっつけば、怪我なんてしない高さや。さっさとしい」
「無理、怖い」
「………ぱんつ見えとるで」
「え?」
「そこにおる限り、白地に赤い水玉模様のお子様ぱんつが丸見えや」
「翔さんのエッチ!」
「なんや、余裕あるやんか。えらい面倒な人やなぁ。……おいでや」
 御堂筋君が、両腕を広げて言った。受け止めてくれるということだろうか。
「でも、腕折れちゃうんでしょ。十キロ痩せたらお願いする」
「何十年そこにおるつもりや。おふざけぬかすなや」
「でも、怪我したら…大会あるのに」
「ボクの冗談いつまで引きずっとるん。久瀬さんが十キロも痩せたらきもいわ。怪我なんてせぇへんから、早よおいで」
「御堂筋君!!」
「久瀬さん、ちゃんと両足地面て意識して飛ぶんやで?」
 首をコテン、と傾げながら御堂筋君が笑顔で私の名前を呼んでくれる日がくるなんて。
 何度も大きく頷いて、両足で御堂筋君の腕めがけて飛んだ。名付けてあなたの腕の中で溺れてしまいたいのジャンプ!もちろん、言われた通り両足が地面に着くように飛ぶわ…って、あれ。
 飛んだ瞬間、御堂筋君は笑顔で両腕を開いたまま、二歩後ろに下がった。当然、着地点は芝生へと変更に。着地の瞬間、ビーン、と音がした気がした。ジンジンと足に響く痛み。着地した時の、しゃがみ込んだような状態の姿勢のまま、動けない。
「………で、す、よ、ねぇ〜」
 分かってた。ちょっぴり期待しちゃったけど、でも私分かってた!
「飛び降り自殺て巻き込まれた人間の方が重傷になることも多いらしいで」
 トリビアか。
 見つかるとまずい、早く立たなきゃいけないのに、足が痺れて動かない。御堂筋君は平気そうなのに。まさか私の方が体重あるんじゃ……いやいやまさかまさか。
「御堂筋君、私このありんこが無事巣に戻れるかどうか見届けてから帰るから、先に駅前のムクド行ってて」
 なるべくへらへらと笑って御堂筋君に言ったら、彼は虫けらを見るような例の目で私を見下した。その目で見られることに、もはや快感すらおぼえる。言ったら二度と喋ってもらえなくなりそうだから言わないけど。
「久瀬さんのくせして、生意気やわ。いっつもはずうずうしいくせして、なんでこないなときだけ嘘つきさんになるんよ。…乗りや」
 私の前で、御堂筋君が背中を向けてしゃがむ。まさか、これは、おんぶしてくれるってことですか。
「でも」
「とにかく早よ乗りい。見つかるとまずいんは変わっとらんで」
 やっぱり、優しいじゃないか。大好きだ。
 目の前の広い肩から前に腕を回すと、御堂筋君は私の太股を抱えておんぶしてくれた。なんて、広い背中なんだろう。外の気温は三十度を超えている。京都に比べたら、箱根の湿度は優しいけれど、それでも暑い。首筋に汗をかきながら、私を背負って歩いてくれる御堂筋君を広い背中越しに見て、たまらない気持ちになって、思わずギュウと抱きついた。
「久瀬さん、くっつかれると暑いんやけど」
「大好きや」
「へったくそな真似せんといて」
「大好き」
「へぇへぇ」
「御堂筋君が大好き」
「もうええわ」
「御堂筋君は私のこと嫌いでも、私は大好き」
「………アホか、嫌いなやつ相手にするほど暇やないわ」
「そ、それ反則じゃない?」
 なに、この人かわいすぎて興奮する。
「嫌いやないだけで好きとはひっとことも言うてないで。あー重い重いわ」

 結局、見つかってしまったどさくさでマジルン二巻を持ち出してしまった御堂筋君と、翌日再度寮に侵入することになるのは、また別の話。







 御堂筋君でした。溺れるが、もう無理矢理でしたけど、溺れるって風呂かプールか噴水か沼あたりじゃないですか。プールって寮にはないだろうし。風呂に制服でドボンして溺れるのもちょっと厳しくてですね。
 ヒロインは御堂筋君に溺れてるってことにして下さい。ごめんなさい。
 御堂筋君は、キャラとしては楽しかったのですが、京ことばがですね、難しくて途中から考えるのを放棄しました。多分あちこちの方言が混じっていると思いますが、許してください。









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