天邪鬼コンフリクト 後編

 ブブブブブブとゴキモンの大軍が、タツキ達に襲いかかる。

「ゴキモンは攻撃力も耐久力も無いデジモン! だからスピードに気を付ければ簡単に倒せる筈です!」

「ありがとう陽!後は数も問題だな。…よし、三手に別れよう!」

 選ばれし子供達とそのパートナーは、それぞれに別れて散った。


「よ〜し……行くわよ陽!」

「OK! マチ!」

 目覚めたマチと陽は、迫り来るゴキモン達の中に自ら飛び込んで行く。

「はぁぁぁあ! コロナックル!!」

 陽は熱くなった拳を高速で一体のゴキモンに叩き込んだ。

「ぎゃあ!」

 元々防御力が低いゴキモンは、熱と衝撃に耐えきれず、塵となって霧散した。

「あいつ、成長期の癖に……パートナーがいるからか?」

「そうだ! 先にパートナーをやっちまえ!」

 ゴキモン達は一斉にマチに向かって突撃し始める。しかし、

「コロナフレイム」

「ヒイイ!」

 広範囲に向け連続で発射された火炎弾により、ゴキモン達の行く手は阻まれてしまった。この技は本来ならば全身の体力を消費するのにも関わらず、陽は息切れすら起こしていない。

「マチには指一本触れさせない。…………マチ、やっぱり隠れてた方がいいんじゃ……」

「陽がいてくれるなら平気。ところで回復って、こうでいいのかしら?」

「うん。疲れが一瞬で取れたよ」

 マチは自らの固有能力で、疲労した陽を回復させていた。

「あっちが本気出してないだけかも知れないけど、速さに対応出来てる……体力が持てば勝てる!」

 陽は再び拳を黒い外骨格に叩きつけた。
 


「うさ! 特訓の成果を見せてやれ!」

「うおおおおお! ルナクロー!」

 跳兎は可愛らしい爪でゴキモンを引っ掻いた。

「いでででで! 何すんだ!」

「ルナクロールナクロールナクロールナクロー!」

「いでえええええ!!!」

 哀れなゴキモンは、引っ掻き傷の辺りから血の代わりにデータの欠片を流し、消えていった。

「どうだ! メイスオブ姉さんの能力で、うさの力は強化されているのだ!」

「参ったか!ところでofの使い方間違ってない!?」

 愛一好と跳兎は二人揃って腕を組み、ポーズを取った。

「生意気な〜……ならば貴様から倒すまでだ! 覚悟しろ人間!」

 ゴキモン達は翅を羽ばたかせ、猛スピードで愛一好に襲いかかる。

「へあっ!!!」

 愛一好は目の前にいたゴキモンに回し蹴りを喰らわせた。

「なにィごぶふっ。」

 ゴキモンは、背後にいた別のゴキモンを巻き込みながら蹴り飛ばされた。

「なんだこの人間!? ヘタなデジモンより強いんじゃないか!?」

 愛一好は挑発的に、右手の指をくいくいと曲げている。

「人間の分ざ「ティアーシュート!」

「ゴボゴボボ!」

 愛一好に悪態をついていたゴキモンは、跳兎の放った水球で溺れさせられた。

「メイちゃんの脚力とうさの攻撃力を舐めんな!」



「ネコパンチ!」

 クラリネのパンチが炸裂する。成熟期のテイルモンの攻撃は、仲間の成長期デジモンに比べて大幅に速く、強い。同じく成熟期のゴキモンは、持ち前の素早さを発揮出来ずに粉砕されていく。

「おいタツキ。俺も進化させろ!」

「よし! コテモン進化ー!」

「ムシャモン!!…………じゃない?」

 村正の姿は、コテモンのままだった。

「なんだハッタリか! ドリームダスト!」

「うおお! きたねっ!」

 ゴキモンは大量のゴミを撒き散らした。

「おい、どういう事だ!? この前は出来ただろ!」

「たぶん、まだタツキと村正は仲よしじゃないってことだと思う!」

 クラリネが必殺のネコキックで敵を蹴散らしながら言う。

「そう言えばセラフィモンがあの時は擬似的にどーたらとか言ってたな」

「って事は俺はこの姿のままかよ! 畜生! サンダーコテ!」

 村正は帯電している竹刀をゴキモンに叩きつけた。

「ドリームダスト! まだまだ出るぞ!」

 数多くのゴキモン達が、ゴミで村正を押し潰そうとする。

「ファイヤーメン」

 その竹刀はゴキモンの顔へ叩き付けるのではなく、ゴミを焼き払うのに使われた。



「ハァ、ハァ……。回復に体力を使い過ぎたみたい……。数が多すぎる……」

 マチは肩で息をし始めていた。

「そもそも元より数が増えてない? 後、段々相手が素早くなってるように感じるのは僕が疲れただけ?」

 陽はかなりの数の敵を焼き払っていたが、敵が減る気配は全く無い。

「行け行け残り100号! いや、200号まで!」

「当然、強い奴ほど後に出てくるよな!」

 マンホールの蓋を開け、ゴミ袋を破りながら、次々にゴキモン達が文字通り湧いて出てくる。

「ねえうさ、コイツら死んだ瞬間卵産んでたりしないよね?」

「デジモンは死んだら『はじまりの町』で生まれ変わるんだよ。……でもゴキモンは卵産んでるかもしれない。」

 流石の愛一好と跳兎も疲弊している。死んだ瞬間その倍の数を産んでいると錯覚するほどの敵の量に圧倒されたからだ。

「叩いても蹴っても減らないよ〜!!」

 いくらゴキモンの攻撃・防御力が低いとはいえ、成長期の村正達が相手をするには限界がある。当然成熟期のクラリネの負担が大きくなる。更に、相手はただ数で圧倒するのではなく、疲労した所に更に素早い兵を送り込んでくるため、こちらの攻撃を当てることは不可能に近くなり、相手のヒットアンドアウェイ戦法が可能になっている。

「正に数の暴力だな……クソッ。あの時の俺なら一瞬なのに……」

 村正が舌打ちしながら言う。

「あの時のって、ムシャモンに進化した時の話か?」

「違えよ。成熟期なんかじゃねえ。究極体の俺なら……」

 その瞬間、村正は面を1体のゴキモンに掴まれ、そのまま地面に叩き付けられた。

「ぐぁっ……!」

「なあ〜にが『究極体の俺』だよ。お前はまだ成熟期にすらなってねえじゃんか!」

 ゴキモンは村正を嘲笑しながらグリグリと地べたに押し付ける。

「この……雑魚が……」

「あ゛あ゛ん?」

 ガシィ!ゴキモンはより強く村正の頭を掴み、再び叩き付けた。

「村正!!」

 タツキとクラリネは同時に叫び、クラリネは村正の元へ駆けつけようとした。

「来るな猫! 来るんじゃねえ!」

 しかし、村正の怒号により、それは阻止された。

「この野郎……お前は弱い、俺は強い、お前は強くない……」

(あいつ……また……)

 タツキは、村正から初めて彼を見たときと同じ物を感じた。あの時は自分と彼の心が一瞬だけ強くシンクロし、彼を進化させる事が出来たが、村正の異変とも言える状態に気づいて冷静になってしまったタツキは、あの時ほど強い感情を持てていなかった。もし進化条件が揃ったとして、体力を消耗した村正をデジヴァイスで無理矢理進化させる事は出来ないだろう。

「俺は、マチや愛一好さんみたいに、一緒に戦えないのかよ……クソッ!せめて竹刀があれば……」

 タツキが歯をギリィと噛み締める音と共に、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

「おのれー、ゴキモンどもめー! よくも我々をここまで追い詰めたなー!」

「これでは〜、我々が負けてしまう〜! 一旦、退却〜!」

「……は?」

 この二人は何を言っているんだ?という顔のタツキの横を、跳兎と救出した村正を抱えた愛一好が駆け抜けていく。

「ほら、早く」

 耳元でボソリと呟かれたタツキは我に返り、愛一好とマチと陽の後を急いで追いかけ、直後にクラリネが続いた。

「おい! 放せ馬鹿!」

「うるさい! 馬鹿とか言うな!」

 愛一好は頭にダメージを受けている村正に容赦なくチョップを喰らわせた。

「兄貴! あいつら尻尾を巻いて逃げてくぜ!」

「俺達正義の勝利だ! ぐわーっはっはっは!!!」



 タツキ達は、駅前の比較的見通しの悪い裏道に逃げ込んでいた。

「あの台詞、言うと結構屈辱的だね。悪者の気持ちがよーく分かった」

 愛一好は呑気に呟いた。皆の顔は疲れきっていたが、村正だけは心ここに在らずといった顔だった。

「ごめんね、マチの力、陽にしか使えないみたい……」

「大丈夫だよ。ボクよりも陽っちに使ったげて?」

「いや、僕も大丈夫だ。僕が回復すればするほどマチが疲れるからね」

 彼女らがマチを気遣っている中、タツキとクラリネは村正を心配していた。

「なあ村正、究極体の俺ってどういう事だよ?」

「あ゛!?」

 何故か村正は不機嫌だった。それはクラリネとクッキーの取り合いに負けたときとは別種のものだった。

「お前、あの時もそうだったよな? 成熟期のクラリネがいるのに、格上の相手と一人で戦っ」

「あいつらは格上じゃねえ。寧ろかなりの格下だ」

 タツキの言葉を遮り、村正は不快感を露にする。

「その訳の分からないプライドで、皆を巻き込んでもらっちゃあ困る訳だけど」

 愛一好が何時になく厳しさを込めた声で言う。マチや陽、跳兎も同じ気持ちのようだ。

「その自信はどこから来てる? 何で一人で戦おうとした?」

「お前こそ何で逃げた」

「こっちの問いに答えろよと言いたい所だけど、先に言わせてもらうと、陽くんもマチちゃんもうさも、自信じゃないけど私も疲れてたし、どっかの誰かさんがボロッボロに痛め付けられてたから。このままじゃゴキ野郎共に皆やられてたから、戦略的撤退をしたまでですが、何か?」

「…………」

 村正は、黙ったまま、何も話そうとしない。よく見ると、愛一好から目をそらそうとしているようだ。

「村正……」

 タツキとクラリネが心配そうに覗きこむ。

「俺は、本当に少し前までは究極体だった……」

村正はボソリボソリと語り始めた。

「俺は、死んでデジタマに戻るまではボルトモンで、相棒のクズハモンと行動していた。ちょっと油断してたら、ポックリいっちまったんだけどな……」

―ボルトモン! 貴方いつも油断し過ぎよ!

―うるせえなあ。パラサイモンごときに負けるはずねえだろ!

ギュルルルルル!

―なっ……

―裏飯綱!

ギシャアア!

―ほら、油断するから。弱い相手には油断して、強い相手には無理をする。全く、よく究極体になれたわね。

―うるせえっての。それに助けなんて求めてねえよ。

「お前、前世もツンデレなのかよ」

「せめて天の邪鬼と言え」

 タツキ達は村正の話に聞き入っていた。因みに、話し始めた頃に「クズハモンとの関係を詳しく」と聞いたために殴られた愛一好が、不満そうにたんこぶを擦っていた。

「そう言えば、ジジモン様から稀に前世の記憶を持って生まれ変わるデジモンがいるって聞いた事がある」

「ジジモン様〜?」

 マチが陽に尋ねる。

「僕達の…あらゆるデジモン達が生まれる場所、『はじまりの町』の長老様だよ」

 村正は話を続けた。

―コイツらは他のデジモンに寄生する事しか能がねえんだ。楽勝だろ。

―ホントウニソウカナ? ナニカアッテモシラナイヨ?

―は?……!

ギュルン!

―キャア!!

―クズハモン!……ぐう! 放せ雑魚! 放せ!

―雑魚雑魚うるせえよ雑魚が。

バキュン………!

―がはっ……

ドサァ… ザッザッザ

―よくやったパラサイモン。最近、コイツら目障りだったんだよ。漸くまた俺の好きなように出来るぜ。

―畜生…お前なんか強くない…お前なんか…

―ボルトモン?ボルトモン!?ボルト…

「俺は目覚めると、孵化したばかりの幼年期になっていた。俺を撃った奴とクズハモンがどうなったのかは分からねえ」

「そんな事が……」

 自分達と同じように、未熟でこれから初めて戦いに身を投じる事になったと思っていた村正が、実は遥かに多くの経験をしてきた戦士だった事に驚きを隠せなかった。だが、彼の戦闘能力はリセットされ、今は精神年齢が遥かに年下のクラリネにも劣る。彼の落胆は、強さを求める心はどれ程の物なのだろう。

「……ごめん村正。俺、お前が強くなりたいのは、お前がお前をまだ未熟だと感じてるからだと思ってた。でも本当は、元々あった力を取り戻したかったんだな」

「……」

 村正は黙ったままだ。タツキからも、誰からも目を反らしている。

「クズハモンを残したままこんなになって、……俺の勝手な想像だけど、悔しかったんだよな。本当はデビドラモンもゴキモンも一瞬で倒せる筈なのに、クラリネにも心配されて。お前、一人で戦おうとしたのって、自分は戦えるって思いたかったのか?それとも……」

「別に、俺は……」

 ぐわし。

「ここは素直に『仲間を守りたかった』と言っとけこのツンデレがーー!!」

 クズハモンの件以来黙って聞いていた愛一好が、急に怒り出し、村正の防具を掴んだ。

「ツンデレとか言うな! 放せ!」

「お前さっきから聞いてれば放せと雑魚しか言ってねえぞこのヤロー!!」

 愛一好は面の隙間にグリグリと指を入れる。

「メイちゃんやめたげて! 見えちゃいけない部分が見えちゃうかもしれないからやめたげて!」

「お前どーせクズハモンと最後までいられなかったから悔しかったんだろ? え? だが残念だな今の仲間は私達なんだよせめて今の仲間を守りたいと思っとけそういう事にしとけ!」

 愛一好はここまでノーブレスで言い切った。

「強くなるには原動力が必要なんだよお前見返りを求めるタイプだろだから無茶苦茶にやっても無駄なんだよ仲間を守りたいとかテキトーな理由つけとけ!」

「な、何言ってんだこの人」

 愛一好と村正以外はかなり引いている。

「何がテキトーな理由だ馬鹿野郎素直に言ってもそのテキトーな理由言っても同じだこの野郎つーか指入れんな……あ。」

 村正もノーブレスで反撃するつもりだったようだが、うっかり本音が出てしまったらしい。

「誘導尋問に引っ掛かるとは……分りやすいツンデレ!」

「引っ掛かる村正も村正だけど、愛一好さんが言ってること脈絡ありませんでしたよ」

 愛一好は作戦が決まり過ぎて驚いたという顔をしていたが、冷静なタツキにそれこそテキトーな事を言っていただけなのではと突っ込まれた。

「ねえねえ」

「あん?」

 クラリネはいつもの無邪気な笑みで村正に話しかけた。

「私達も、村正と一緒に強くなっちゃダメなの?」

「は?」

 クラリネはその後は続けず、ただただ静かに微笑んでいた。

「僕達も、偉大な戦士と戦わせて欲しいって事です」

「何だよ急に……気持ち悪いぞ」

 陽もクラリネと同じように微笑んでいる。

「兎に角だ」

 何故か急に、スカートのような物に隠れて見えない足で跳兎が立ち上がる。

「今問題なのは、このツンデレの癖に言葉の裏を取れない奴ではなく、如何にしてゴキモンを倒すかどうかだ」

「何でこいつ急に仕切ってんだよ」

 跳兎はどや顔で続ける。

「僕も陽っちもムラムラも成長期、この疲労した身体では成熟期のゴキモンに太刀打ち出来ない」

「それ分かりきってる事だろ。後そのあだ名に異議を申し立てる」

「何だよ折角思い付いたのに」

(確信犯かよ)

 跳兎は他のメンバーの周りをぐるぐると回って歩く。

「恐らく、今一番動けるのはクラリネちゃんだ」

 ビシィ!とクラリネを指差す。

「大量のゴキモンを倒すためには、そう!…………そう……」

 跳兎はどや顔のまま固まってしまった。

「思い付いてないんかい!!」

 跳兎は申し訳なさそうにガクッと項垂れてしまった。

「クラリネの殴る蹴るだけじゃ、あの数は倒しきれないよな」

「…………あーーーーー!!!」

 突然愛一好が叫んだ。

「あれはあれ! 何かセラフィモンがくれた奴!」

「あれって……これか!」

 タツキは愛一好に指摘され、やっと『光のデジメンタル』の存在を思い出した。

「確か、擬似的な進化が出来るんだよな……」

「アイテム使うって事は、絆がどうとか関係ないのかな?」

 タツキは掌にある秘宝を見つめる。

「打てる手があるなら打つしかないよな」



「待たせたな! ゴキモン共!」

「ああん? 何だ? また俺達に挑戦するのか?」

 ゴキモン達は、あれほど時間が経っていたのにも関わらず、これといった行動をしていなかった。おまけに、愛一好の怒鳴り声にも気付いていなかったらしい。

「今日がお前たちの最後だ! 行けクラリネ!」

「にゃんにゃごにゃ〜ん♪」

 タツキは先程の愛一好やマチの口調に合わせた口上を述べ、光のデジメンタルを掲げた。

(えーっと、どうやって使うんだこれ?)

 その時、デジメンタルから眩い光――村正や陽が進化した時のものに似た光が溢れ出す。

(えっえっ、何?俺何かした!?)

 その光は……いや、デジメンタルがクラリネを包み込んでいく。

「テイルモン進化ーー!」

 四肢はよりしなやかで女性的になり、背には純白の翼を背負い、顔はデジメンタルの意匠と同じスフィンクスのような面に覆われていく。彼女は翼ではなく自らの跳躍力で飛び上がり、ゴキモンの群れの前に着地した。それと同時に、クラリネの身体を包んでいた光のベールが弾ける。

「微笑みの光、ネフェルティモン!」

 ネフェルティモンとなったクラリネは、ゴキモンのリーダーをその目で真っ直ぐ見据える。

「あ、アーマー体……!」

 ゴキモンのリーダーは一瞬たじろいだ。しかし、こんなのに負けてはいられないと、クラリネを睨み返す。

「野郎共! 相手は一体だ、叩き潰せ!」

 ゴキモン達はリーダーの飛ばした激を受け、クラリネに向かって羽音を立てて飛んでいく。

「クラリネ! 迎え撃て!」

「にゃんにゃごにゃーん♪」

 どうやら性格は変わっていないクラリネは、ゴキモンに向かってファイティングポーズをとる。

「カースオブクイーン!」

 クラリネがそう叫ぶと、彼女の額の蛇のような飾りから、深紅の熱線が放たれた。

「ギャアアア! あづいいい!! アヅイイイイ!!」

 その熱線は、ジュウウという音と煙を上げ、陽や村正の炎よりも多くのゴキモンを焼いていく。長く伸びる光は、素早いゴキモンも逃さない。クラリネは首を振り、光線を広範囲に乱射する。

「あ、あ、兄貴! やべえよこれ!」

「いっ、一旦退却ぅ!」

 ゴキモンのリーダーとその取り巻きは、焼かれ、苦しむ仲間を省みずに逃げ出した。

「アイツ、仲間を置いて逃げる気か!」

「ロゼッタストーン!」

 表情の見えないクラリネは、怒りを込めているとも無慈悲とも取れる口調で、技の名前を叫ぶ。その瞬間、クラリネの頭上に古代の石盤と思われる巨石が出現した。

「ゲゲエ!!!」

 その石盤は、逃げるゴキモンに向かって猛スピードで飛んでいく。

「おいちょっと待て!話せば分かる話せば……ああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 ズゥゥゥン……ゴキモンのリーダーとその取り巻きは、自身の能力の中でも最も特化しているスピードをもってしても、ロゼッタストーンからは逃げ切れなかった。どうやら下敷きになったままデータの海に還ったようだ。リーダーを失い、次々焼かれていく仲間を見て恐怖を覚えた残党は、散り散りになって逃げ出してしまった。

「………………よーーし!!!勝ったぜ!」

 高らかに勝利宣言をするタツキの元に、仲間たちが駆け寄ってくる。

「これで〜、マチの町に〜、平和が戻った〜」

「今回はお前に譲ってやる形になったな」

「出た! ツンデレ!」

「黙れ馬鹿」

 各々が喜びの感想(?)を口にする。

「やったね!これでお出かけできるね♪」

 クラリネも跳び跳ねて喜んでいる。

「ところでクラリネ……さん?」

「?」

 跳兎が少々ひきつった顔でクラリネに話し掛ける。

「…………喜んでる?」

 微笑みの光であるネフェルティモンの顔は、マスクに隠され微笑みどころか表情が全く変わらない。

「そうか! これじゃあ私の顔見えないんだ。じゃあ……」

 クラリネは頭全体を覆うマスクを獣の手で外そうとする。

「わーーーーー! タンマタンマ! それダメな奴! 村正の面の下と跳兎の足と同じくらいダメな奴!」

 タツキ達は必死でネフェルティモンという種全体の秘密の暴露を阻止した。

「しかし、墓石って凄いね!」

「いや、墓石じゃないと思います!」

 タツキと陽が愛一好に突っ込んだその時だった。

「なあ、今の本物!?」

「ヤバくね!? マジヤバくね!?」

「ヤバいのはこっちだ……」

 ゴキモンが倒されてバリアが解けたため、バリアに阻まれていた人々が一斉に駅に向かってなだれ込んで来た。

「えー、あー、スフィンクス仮面は次は君の街へいくぞ! さらば!」

 タツキ達は、誤魔化しながら駆け出した。

「え? 今のヒーローショー?」

「ちょっと待て君達! 撮影許可なんて出してないぞ! おーい!」


「あぶねー。警察に捕まるところだった」

「これで明日出掛けられるぜうさ!」

 先程のクラリネにしろ今の愛一好にしろ、何故興味が遠出する事にしか向いていないのだろう。

「ねえねえ」

「あん?」

 クラリネは村正の耳元に顔を近づける。

「もしネフェルティモンでもダメだったら、ムシャモンになって助けてね?」

「…………おう」




次回予告!
タツキ「突然どうした!?」
ムシャモンに進化し、敵を倒していた村正だったが、やっぱり油断して捕まってしまう!
「ムシャモン!今日が貴様の最後だ!」
「グエエー!!!」

村正「ざけんな。」
全て嘘だ!
次回『カーチェイス&ラブロマンス』
タツキが、村正が、クラリネが大活躍…しないぞ!
全員「は?」
何時から君達は次回がこちらサイドの話だと錯覚していた?
全員「全て嘘だったのか!」
摩莉「何このつまらない茶番。」


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