旧第2話 少年はそのまま異世界へ
「コテモン進化…ムシャモン!」
眼の奥を通り抜けた先まで刺すような一瞬の光が消えると、そこに小さな剣士の姿は無く、代わりに赤い鎧の武者のような男が日本刀を構えていた。シルエットは人に近いが、人そのものといった訳ではないようだ。
「し、進化だと!?まさかっ!まさかあの餓鬼がっ!!?」
黒い竜は急に狼狽え出した。武者は無言のまま刀を竜に向けた。
「やった!やったよ!」
タツキ達の足元で白猫が嬉しそうに跳ねている。
「やったって…つまりどういうこと?」
只でさえ理解出来なかった状況が、剣士が突然変身したことによって、より不可解なものとなってしまった。念のため、この要領を得ない話し方をする猫に尋ねてみた。
「あのね!成功したんだよ!《進化》したの!」
「…進化?」
ダーウィンの進化論によると、生き物の進化は永い時間をかけて徐々に起こるものだったと思うが、多分この生き物達の言う進化は別物なのだろう。
「て言うか、俺何もしてないけど…」
「ううん!あなたのおかげだよ!デジモンとパートナーの想いが共鳴したから進化出来たんだよ!」
デジモン?パートナー?…どうやらこの生き物達はデジモンというらしい。
先程ムシャモンと名乗った武者は刀を向けたまま、竜にドスの効いた声で話しかけた。
「こっちもお前も成熟期だ。これで五分五分…それなのにお前は随分と怯えてるな。」
「…五月蝿い!」
グアッ!!! 竜は今までで一番速いと思われるスピードで尻尾を振り抜いた。しかし、ムシャモンはひらりと飛び上がって宙返りしながらそれをかわした。
「デビドラモンほど凶悪なデジモンはいないと言うが…そうでもないようだな。」
涼しい顔でそう言い放つムシャモン。その態度にデビドラモンというらしい竜は激怒した。
「クリムゾンネイル!!」
デビドラモンがムシャモンを切り裂こうと長い爪を振るう。グシャアという音と土煙が立った。
「あ、あっちも技出して来たァ!?」
デビドラモンは殺ったかと一瞬笑みを浮かべた。しかし、土煙が晴れるとそこにはグシャグシャに潰れたジャングルジムがあった。
「なっ…!?ぐ…クソッ!何処だ!?………」
キョロキョロと辺りを見渡すと同時に気配を探ろうとする。
「後ろか!!」
忌々しい相手を仕留めるために反射的に後ろを向く。その瞬間、四つある邪眼の一つが刀の太刀筋を捉えた。
「グギィアアアアアアア!!!!!」
奴だと思った瞬間、顔と目を激しい痛みが襲った。深く切られた眼と顔からは、血ではなく、細かい粒子のようなものがボロボロとこぼれ落ちては空に向かって消えていく。
「お前、まだ血が出るような目に会ってなかったのか。」
「キッ、貴様っ…貴様ァァアァァァアァァ!!!!」
激昂。残った三つの眼は狂気の色をしている。視線で人を貫けそうな鋭い眼光だ。
「まぁ、人間達も見てるからちょうど良かったぜ。」
「殺スッ!殺ス!殺シテヤルウゥウウゥウウウ!!クリムゾンネイルーーーーーーーーー!!」
デビドラモンは今度こそムシャモンを仕留めるために、爪を振るった。ムシャモンは飛び上がってそれをかわし、刀を大きく振り上げる。
「切 り 捨 て 御 免」
「ギィィイアアァアアーーーーーー!!!!!」
デビドラモンはムシャモンの一太刀により、光の粒子となって空に消えていく。
「た、倒した…?」
「そ、そうなのかな?…」
タツキとマチが顔を見合わせていると、ムシャモンはもとの小さな剣士に戻った。白猫と太陽のような生き物が駆け寄っていく。
「すごいすごい!進化して倒せちゃったね♪」
「あの、助けてくれてありがとう!」
「ああ…」
タツキとマチも彼らの元に駆け寄っていく。
「き、君達って一体…」
「俺達は…」
小さな剣士が答えようとしたとき、彼らの足元に光の線で描かれた魔法陣のようなものが現れた。
「へ?」
シュン…! 一瞬で彼らの姿は公園から消え去った。
「ようこそ。デジタルワールドへ。」
「へ?」
気が付くとタツキ達はギリシャ神話に出てきそうな場所…白亜の神殿の一室に立っていた。長い柱が何本も立ち、よく見れば壁や柱に天使の羽根のような模様や天使そのものと思われる人物が彫られている。そして、前方には、白い兎のような生き物を抱えた女子高生らしき人物と、白銀の鎧を身に付け、背には10枚の黄金の翼を生やした人物が立っている。
「あ、あの〜…Who are you?」
タツキの口からは何故か英語が出てきた。
「我が名はセラフィモン。デジタルワールドを守護する三大天使の一人だ。」
「あ、はい。はい…?」
ちょっと待てよ?デジタルワールド?さっきも言ってたけどさぁ。どこよ?それ。っていうかこの人今天使って言った?え?そういえばコイツら自分のことデジモンって言ってたな。そのカテゴリの中の天使ってこと?は?
「おーい、大丈夫かー?おーい。」
高校生が心配そうに声を掛ける。
「あの〜、最初から説明して頂けないでしょうか?」
天使がこちらの要求に応えてくれるか分からなかったが、タツキは取り敢えず聞いてみた。
「そうだな。少し説明不足だったでは、最初から説明しよう。」
良かった!良い天使さんだ!この表現でいいのかわからないけど!
「我々三大天使は《神の領域(カーネル)》からこのデジタルワールドを見守る使命を持「ちょちょちょッ!ちょっと待って下さい!!最初からっていうのは三大天使についてじゃなくて、デジタルワールドについてです!」
「何…!?人間はデジタルワールドそのものさえも知らぬと言うのか…!?」
セラフィモンは、その仮面の下で驚いた顔をしているに違いない。さらに後ろでヒソヒソと声が聞こえる。
「お前、人間がこっちの事知らないって教えてなかったのかよ。」
「だって知ってると思ってたんだもん。」
「お前ら天使サマとどんな関係か知らないけど、意思疏通が出来るようになってから呼んでくれ…。」
セラフィモンはコホンと咳払いをすると、何事も無かったかのように話し始める。
「では、最初から説明しよう。この世界デジタルワールドは、君達が住む人間界とは異なる世界だ。」
字面の通りだとタツキは思った。
「だが、全く関係ないという訳ではなく、むしろ密接に関わっている。デジタルワールドと、君達のネットの世界は繋がっているのだ。だから君達人間の感情や活動によって、デジタルワールドの在り方は変化していく。」
「つまり〜、マチが〜寝ていると〜、こっちでは何かが起こる〜?」
「いや、それネット関係ないだろってマチお前、起きてたのかよ。」
セラフィモンは続ける。
「そして、このデジタルワールドに住んでいるのが我々デジモンだ。」
「それでね!セラフィモン様はね!このデジタルワールドを見守っている三大天使なんだよ!三大天使はね!天使デジモンの中で、一番偉いんだよ!上にもう一人いたけど!」
白猫が誇らしげに説明する。
「そのデジモン達が私達の世界にやって来たと。ところで、今この猫ちゃん?がもう一人「いた」って言ってたんですけど、それって一体どういう…それにこの子、最初は何か雫的な何かだったんのに、今はこんな姿になっているんですけど…」
女子高生がセラフィモンに尋ねる。どうも彼女は物事をズバズバ言う性格らしい。そして白い兎のような生き物は手を振ってアピールする。
「 そう。それが君達をここへ呼んだ理由なのだ。」
「おお!何か核心突いたっぽい!」
話し方はあまり真面目ではないようだ。
「少し長い話になる。だが、重要な話だからよく聴いてほしい。」
セラフィモンはある戦争にまつわる話を始めた。
私とオファニモン、ケルビモンの三大天使は、大天使ルーチェモン様の元、デジタルワールドを見守っていた。我々は1000年前、七大魔王と呼ばれる、悪のデジモンと闘い、封じる事に成功した。その際、七大魔王最強の存在である「ルーチェモンフォールダウンモード」を倒した為、七大魔王が揃って復活する可能性は無いと思われた。
「待って下さい。一番偉い天使がルーチェモンで、一番悪いデジモンもルーチェモンとは、一体どういう事ですか?」
「うおお!マチがいつの間にか覚醒してる!」
マチが疑問を口にする。
「ルーチェモンフォールダウンモードは、その名の通り、ルーチェモン様が堕天なされたお姿だ。当時の先代のルーチェモン様が堕天したが為に、七大魔王が全員揃ってしまったのだ。」
「堕天なされたって…そういえばデジモンって、同じ種族に何体かいるんだ。」
「その通り。しかし、我らのようなデジタルワールドの存亡に関わるような種族はそう簡単には産まれてこないため、次に七大魔王が揃う事は無いという判断だ。」
だが、何者かの手に因って、七大魔王、いや、六大魔王は復活した。そこで、この世界を管理する神とも言える存在、《イグドラシル》が、直属の聖騎士団、ロイヤルナイツに我ら三大天使と協力して魔王を倒すようにと指令を出した。我々は奴らの巣である《ダークエリア》へと向かった。
この時、我々は《神の領域》にまで攻めてくる事は無いだろうと高を括っていた。しかし、奴らは我々の留守を狙って《神の領域》にまで攻めてきた。奴らの狙いはルーチェモン様だった。どのような手を使ったかは分からないが、ルーチェモン様は堕天し、七大魔王が全員揃ってしまった。我らもこれには焦り、急いで魔王を討伐しようとした。だが、堕天したルーチェモン様の力は強大で、同僚であるケルビモンとオファニモンが殺された。その結果、ロイヤルナイツが如何に動けるかがこの戦争を終わらせる為の鍵となった。その時は彼方に分があると思われていたが、ロイヤルナイツの一人のデュナスモンが命と引き換えに「怠惰」のベルフェモンを討伐し、勝機が見え始めてきた。だが、その時だった。ダークエリアの奥深くに潜む「吸血鬼の王」グランドラクモンが騒ぎを聞きつけ、何を思ったのか我々と七大魔王を相手に奴は宣戦布告をしてきたのだ。
「こうして聞くと新キャラは一度に名前を沢山出すべきじゃないことが分かるね。」
「新キャラは姿をチラ見せさせといて、読者の興味を引いとくといいんだよ。」
女子高生と兎のようなデジモンが何か言っている。
「緊張感無いにも程があるだろ。」
戦況は混乱を極めた。更にグランドラクモンは、声に込められた魅了の力で多くの天使と悪魔を操り、けしかけてきたのだ。七大魔王も我々も、お互いだけを気にかける訳にはいかなくなった。グランドラクモンの軍勢を止めるため、ロイヤルナイツの中の何人かが犠牲になったが、「色欲」のリリスモンも道連れにすることが出来た。だが、ここで我々に追い討ちを掛けるような出来事が起こった。痺れを切らしたイグドラシルが、デジモンという種族の存亡に関わるプログラム「X」を散布し、デジモンそのものを消去することによって世界の均衡を保とうとした。「X」の散布を止めるよう説得するため、ロイヤルナイツは一部を残してイグドラシルの元へ向かった。結果として「X」の散布は阻止できたが、もう一つ問題が起こった。罪の無い命をも奪おうとしたイグドラシルに失望した天使がバグラモンと名乗り、イグドラシルを破壊しようとした。三大天使・ロイヤルナイツ連合軍、七大魔王、グランドラクモン、バグラモンの四つ巴の戦争は、今も続いている。
「…ええ!?」
タツキ、マチ、女子高生の三人は「今も」という言葉に度肝を抜かれた。
「ちょっと待って下さい!七大魔王が封印されたのは1000年前だっていうのは聴いたんですけど、その戦争は最近始まったんですか!?」
「そうだが?言っていなかったか?」
何で重要な事を後から言うんだと、タツキは肩を落とした。
「だが、常に戦争状態という訳ではない。皆、疲弊しているため、休戦協定が結ばれるようになった。」
「だから今は落ち着いて話せるのか。」
セラフィモンは続ける。
「因みに現在生き残っているのは、こちら側では私、ロイヤルナイツのオメガモン、ロードナイトモン、ガンクゥモン、スレイプモン、ドゥフトモン。七大魔王は「憤怒」のデーモン、「嫉妬」のリヴァイアモン、「強欲」のバルバモン、そして「傲慢」のルーチェモンだ。バグラモンもグランドラクモンもまだ生きている。」
「さっきから七大魔王の名前を言うときに、名前の前に何かつけてますけど、それって何ですか?」
女子高生がタツキ達の代わりにどんどん質問してくれる。
「七大魔王は、それぞれが《七つの大罪》のうちの一つをそれぞれの心情や特徴として持っている。先程言ったのはそれだな。最近は、「ビックデスターズ」という新興勢力の活動が囁かれている。もしかすれば討伐対象になるかもしれん。」
「ビックデスターズって名前だせえ。」
緊張感が無いのはセラフィモンが重要なことを言わないせいなのか、女子高生が空気を読まないからなのか、タツキは考えるのをやめた。
「そう言えば、ロイヤルナイツと三大天使とその部下の他に、味方はいないんですか?」
ビックデスターズにこだわる女子高生と、それにガックリ来ているタツキの代わりにマチが質問する。
「イグドラシルはロイヤルナイツに、三大天使以外に協力者を求めないよう命じていたらしい。更に、七大魔王に対抗出来るオリンポス十二神族や四大龍、四聖獣とその部下達は、あくまで中立の立場で、七大魔王が大きく世界を揺るがさない限りは我々と共闘することができない。」
「なるほど。イグドラシルって言うわからず屋のせいだけじゃないのか。…まさか、私達を呼んだのって…」
女子高生が少し顔を青くしながらセラフィモンを見る。
「我々だけでは七大魔王やグランドラクモンを倒せない程に疲弊してしまった。」
「もしかして…」
マチも女子高生が言いたい事と同じことを考えているらしい。
「デジタルワールドに危機が迫っているとき、あらゆる世界から召喚された人間の子供達と、そのパートナーデジモンが、幾度と無く危機を救ってきた。」
「俺達が呼ばれたのって…」
タツキも二人と同じことを考えているようだ。
「そこでだ。君達にも同じように、この危機を救って欲しいのだ。」
「…やっぱりそう来たかーーーーー!!!」
タツキ達三人は神殿を震わすような大声で叫んだ。
「ちょちょちょ、ちゃんと待ちましょう!俺達、ごく普通の一般市民何ですが!?しかも俺達の他に人間が来てたんですか!?」
「結構な頻度で来ているぞ。デジタルワールドは常に不安定要素があるからな。因みに1000年前の七大魔王の封印も人間に手伝って貰った。今回は君達の他にも何人か人間が来ているぞ。勿論皆、一般市民だ。」
「頼むから重要な事は先に言って下さい!!
」
大天使をも恐れずタツキは叫ぶ。
「私達が選ばれた理由とは一体…」
マチがイライラしているタツキとは対照的に、冷静に質問する。
「よくぞ聞いてくれた。まずは人間とデジモンのパートナー関係について説明しよう。」
「質問される前に言って欲しい…」
人間とデジモンは、産まれた時から自身のパートナーが決まっている。基本は一人に一体だ。デジモンは、パートナーとの絆が深まる事によって、「進化」することが出来る。
「進化…さっき、コイツが変身した時のアレか。」
デジモンは、幼年期1、幼年期2、成長期、成熟期、完全体、究極体の順で進化する。進化の条件はパートナーとの絆が深まる事、充分な経験値を得ること、そして単純な時間経過だ。絆の力での進化は一時的なもので、世代が上がるごとにその姿でいられる時間が減っていく。だから、パートナーデジモンも確りと修行して力を付ける必要がある。
「すぐに小さくなったのは、そういう事だったのか。」
人間の中には、デジモンに関わる特殊能力を持つ者がいる。私は、その者達を探していた。そして君達を発見した。
「それで俺達が…」
パートナー同士は自然と引かれ合うもの。そこの者達に自らのパートナーを探しに行かせたのだ。
「だから街中を走ってたのか!っていうか何で俺達から逃げたんだよ。」
タツキは白猫を問いただす。
「いやぁ、こんな普通の人がパートナーじゃないと思って…ごめんね?」
「ひでえ!そう言えば!あのドラゴンって何だったんだ?」
「えっとね、わたしたちはパートナーを探してたんだけど、途中であのデビドラモンに会ったの。で、あの子が自分が戦うって言い出して…」
白猫は剣士をちらりと見た。
「わたしだけでパートナーを探すことになって、あの子がこの子を守りながら戦って、パートナーが見つからないから急いで戻ろうとしてたの。」
白猫はこの子と言った時、小さい太陽のようなデジモンを見た。どうやらタツキ達と出会ったのは、剣士達を探しに戻っていたときのようだ。
「でも良かった!パートナーが見つかって。」
白猫がほっとした様子で言う。
「で、結局あのドラゴンって何だったんだ?」
白猫の代わりにセラフィモンが説明する。
「デジタルワールドが歪んだ事によって、こちらと人間界を繋ぐ《デジタルゲート》も歪み、人間に対して悪意を持つデジモンが人間界へ来れるようになってしまったのだ。君達にはそんなはぐれデジモンの討伐もお願いしたい。」
「また面倒な…さっきデジモンには必ず人間のパートナーがいるって言ってましたけど、人間嫌いもいるんですか?」
タツキは怪訝な顔をする。
「全てのデジモンが、パートナーと出会う訳では無いからな。寧ろ人間を知らずに一生を終える者が大半だ。」
「なるほど…そう言えば俺、コイツと会話もしてないのに進化させる事が出来たんですが…」
「おそらく、この《デジヴァイス》によって、君と彼の感情がリンクしたのだろう。強い思いがシンクロする事で、擬似的に絆を結んだような状態になったのかもしれん。」
セラフィモンはタツキ達に向けて、丁寧に説明する。
「これはデジヴァイスって言うのか。」
タツキはポケットの中に入れておいた、あの機械を取り出した。
「あれ?私それ貰ってないのにこの子、進化したんですけど?」
女子高生は、兎のようなデジモンの柔らかい頬をぷにぷにとつつきながら尋ねる。
「おそらく、君の持つ電子機器がデジヴァイスのような役割を果たしたのだろう。」
「…これか!」
彼女は鞄の中からスマートフォンを取り出した。
「折角だ。君のそれをデジヴァイスと同じように使えるようにしておこう。」
セラフィモンは、右手を女子高生のスマホに向けてかざした。少々、淡い光を発していたように見えた。
「…あ!見たことないアプリが追加されてる!天使パワー凄っ!」
女子高生は無邪気にはしゃいでいる。
「そうだ、あなたに…はい。」
小さい太陽のようなデジモンが、マチにデジヴァイスを差し出した。
「もしかして〜、マチが〜、貴方のパ〜トナ〜?」
「はい、そうで…え?」
マチのパートナーは、マチの豹変ぶりに、目を丸くした。
「ねえ、彼女、二重人格?」
女子高生がタツキにこそこそと聞く。
「いや、あいつは今寝てるだけです。さっきまで起きてたんで、疲れただけです。」
「よく分からないけど、大変そうだね。」
女子高生が、タツキと太陽のデジモンを気の毒そうに見つめる。
「大丈夫かな…」
太陽のデジモンが呟いたその時、彼の身体が光に包まれた。
「何!?」
光が収まると、マチのパートナーの姿は、尾と額に炎を宿した獅子の子供のような姿になっていた。
「もしかして〜、進化した〜?」
今、進化したばかりの彼は、自分の姿の変化に驚いて、さっきまでは無かった手足を見つめている。
「コロナモンだな。幼年期はパートナーとの絆が産まれた時点で進化すると聞いている。」
セラフィモンが言う。
「だからこの子はすぐに進化したのか…あ!!!」
女子高生が急に叫んだ。
「まだ自己紹介してなかった!せっかく仲間になったんだから、自己紹介しなきゃ!ってな訳で、私の名前は斑目愛一好。愛と一と好きでメイスって読みます。どうぞよろしく。」
愛一好と名乗った女子高生はペコリと頭を下げる。
「それでボクがルナモンのうさだよ!さっきまでムンモンだったけど、メイちゃんに会って進化して、はねうさぎって名前をつけてもらったんだ!うさって呼んでね!」
「因みに、跳ねる兎で跳兎って漢字書きます。」
跳兎がぴょこんと手を挙げて挨拶し、愛一好が一言付け加える。
「どっちも…凄い名前っすね…」
「よく言われるぜベイベー。」
愛一好がグッと親指を立てる。
「そう言えば〜、名前〜、付けたんですね〜。」
マチがフラフラしながら言う。
「うん。勝手につけちゃった。」
「それじゃあ〜、この子達にも〜、お名前付けよ〜。」
マチが提案する。
「俺は別に…要らねえよ。」
「じゃあ、お前、村正。」
「はあ!?」
そっぽを向いていた剣士に、タツキは勝手に名前を付けた。
「お前、何かそんな感じがするんだよ。ちなみに何てデジモン?」
「お前、勝手に…今はコテモンだ。今はな。」
村正は最初は渋っていたが、仕方なく了承した。
「で、こいつは…」
「ふにゃ?」
タツキは白猫を見つめる。猫は首をかしげた。
「クラリネ!!!!」
「は?」
マチが突然叫んだ。
「クラリネ!昔うちにいた猫ちゃんの名前!」
「可愛い!良いじゃんクラリネ!」
愛一好と跳兎も目を輝かせて同意する。
「じゃあ、お前の名前はクラリネな!」
「クラリネ…かわいい!ありがとう!」
クラリネは飛び上がって喜んだ。
「で、僕の名前は…」
「え〜っと〜…陽!太陽の陽!」
「陽…!」
陽は動きは少ないものの、その顔はとても嬉しそうで、輝いて見える。
「で、勝手に名前つけちゃったけど、いいんですかね?」
愛一好がセラフィモンに一応聞いた。
「たった一人のパートナーだ。その方が特別な感じがするだろう。武者小路タツキ、君は二人だがな。」
「…は?」
「それこそが、君の能力だ。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているタツキを他所に、セラフィモンはマチの方を向いた。
「マチルダ=ヴェンゼンハイデン、君の能力は《パートナーに対する治癒能力》だ。君はパートナーの傷を癒す事が出来る。だがそれは、無理をさせやすいという事だ。気を付けてくれ。」
「わかりました〜、マチは〜ちゃんと〜、気を付けま〜す♪」
「ホントに大丈夫かな…」
陽はマチを心配そうに見ている。セラフィモンは、次に愛一好の方を向いた。
「斑目愛一好、君のパートナーは、身体能力が同種族と比べ、1.5倍になる。」
「ってことは、うさがパワー200に進化すれば、1.5倍の300に!!」
「やべえ!うさやべえ!」
二人は妙な喜びかたをしている。そして、セラフィモンは最後にタツキの方を向いた。
「武者小路タツキ、君には通常は一体しかいないパートナーが、二体いる。コテモンの村正、テイルモンのクラリネの二体だ。」
「あの…やっぱり俺だけ凄く地味…」
「いや、戦力も戦略の幅も大きくなる。貴重な能力だ。」
「はあ。」
タツキは上手いこと言われて言いくるめられたような感じがしたが、黙っておいた。
「実は、一つ問題があるのだ…」
タツキはデジタルワールドで問題が起こるのはひょっとして、あんたのせいじゃないのかと思ったが、これも黙っておいた。
「君のパートナーのクラリネは今、成熟期なのだが、彼女はデータに異常があり、完全体に進化できないのだ。」
「ええ!?」
タツキ達は驚いて、クラリネを見た。
「究極体には進化出来るようだが…そこでだ。」
セラフィモンは手のひらを天に向けると、その上にエジプトのスフィンクスの形を模したような物体が現れた。
「これは《光のデジメンタル》。デジタルワールドに散らばる秘宝の一つだ。」
「デジ…メンタル…」
「これがあれば、《アーマー進化》と言う擬似的な進化が出来る。究極体になれるまで、それを使って戦ってくれ。」
セラフィモンが手を前方にかざすと、デジメンタルはタツキの手の中に納まった。
「あ、ありがとうございます。」
「クラリネも自分だけ進化出来なくてつらいだろうが、辛抱してくれ。」
「にゃんにゃごにゃーん!」
クラリネはそう言って敬礼した。今のは「アイアイサー」のようなものらしい。
「では、少年少女よ、デジタルワールドの危機を救ってくれないか?」
セラフィモンは、あらためて全員を見渡した。
「乗りかかった船だ。最後までやるぜ!」
こうして、タツキの戦いが始まった。[ 59/66 ][*prev] [next#]
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