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久しぶりに訪れた休日を探偵助手サーヤは買い物に充てていた。生活必需品に始まり、服や趣味の絵物語に至るまでじっくり見ようとそう決めた矢先のことである。
十字路に出たところで横からやってきた人物とぶつかった。軽い衝撃ののち、相手の持っていた荷物を地面にばら撒いてしまったことに気付いた。

「あ、すみません!お怪我はありませんか……!」
「いてて……いえ、こちらこそすみません、前をよく見ていなかったもので……」

尻餅をついた相手に手を差し伸べたところでサーヤとぶつかった相手の動きが同時に止まる。一瞬のフリーズ、そして。

「貴方は怪盗ナマエ……!」
「探偵助手!どうしてここに!」
「それはこっちの台詞です!出会ったからには逃がしませんよ!覚悟してください!」

怪盗ナマエ。怪盗シャノワールと共に名を馳せ始めた怪盗である。ただでさえシャノワールだけでも手が負えるのに新しい怪盗の出現はバロワとサーヤを悩ませた。ここしばらく仕事が忙しかったのもお騒がせな怪盗たちのせいであった。シャノワールに翻弄され続けているバロワに対し怪盗ナマエを追うのは助手のサーヤの役目になっていた。

サーヤがオフの日であるようにナマエもまた、いつもとは違った装いでいた。まるでカフェの店員のような。カフェ……?地面に散らばった食材。サーヤの脳は回り始めている。

「もしかして……買い出しの途中だったりするんですか?」
「ご名答。さすがは探偵助手。その調子で師匠を追い詰めてあげてくださいませ」
「それはバロワ先生の役目で……ってそれより怪盗の貴方がどうして買い出しなんかをやってるんですか?考えられるのは潜入ですけど……」
「誤解のないように断っておきますがこれは怪盗業には全く関係ありません。少しの金でも足しになればと故郷に送りたくてやっていることです」

「故郷、ですか?」
「長い間雨が降らず、作物は育たないし飲み水ですら余裕がない状況なんです」
散らばった食材を拾い、ナマエに手渡しながら気になったことを問いかける。怪盗ナマエはただの愉快犯ではなく、何か確固たる信念を持った怪盗だということは事件を通してサーヤが感じたことだった。

「もしかして怪盗をやっているのも故郷と何か関係が……」
「それを知ってどうするんです?貴方、探偵助手でしょ。私を捕まえるんじゃないんですか」
「はい、そこはもちろん逃す気はありません。ただ、」
「では、気になるなら自分で解き明かしてみてください。私を追っていくうちに答えが得られるはず。それまで捕まる気はありませんよ」

「今日はすみません、マスターを待たせているのでこれで」買ったもの全てを拾えたことを確認したナマエは律儀に礼をしてサーヤに背を向ける。

「怪盗ナマエ!次会った時は覚悟してください!」
「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちますよ。貴方の目の前で華麗に盗み出してあげます」

奮起する探偵助手と余裕綽々な新人怪盗。
そこには一種の信頼関係が生まれつつあった。

20190315

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