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※SRフェイトエピネタ

「山菜を採りに行ったそうですね」

仕事がひと段落つき、陛下へ報告に向かったその足でカイン殿の元へ立ち寄る。今、カイン殿と顔を合わせる必要はない。だが今こうして私はカイン殿の前にいるのだから、まあ、なんだかんだ絆されているのだろう。

「ああ、もしかしてナマエも行きたかったのか……って顔じゃねぇな」
「大体のいきさつは陛下や団長さんたちに聞きました。レム王国からの難民の受け入れ準備も済んでいます。して、カイン殿」
「話はもう行ってんだろ?多分それが全部だ」
「そうですね、全部。聞きましたとも」

その一件の全容を耳にしたとき、カイン殿に文句の一つや二つ言わねばならないと思った。彼がいたからこそ大きな被害を出すことはなかったのだろうが、それでも言わなければ私の気が済まなかった。

「きっとその場でレオナ殿に叱られたことでしょうが、私からも言わせていただきます」
聡いカイン殿のことだ、これだけ言えば何の要件で来たのかわかるだろう。
「あー……待った!それよりそうだ、ラインハルザに頼んで山菜料理を振舞ってもらおう!な?」
不自然に話を逸らした彼の態度からしてその目論見は当たり。ラインハルザ殿の山菜料理の話はちょっと気になるが、話を逸らされてやる気は微塵もないので無視して続けさせてもらう。

「カイン殿のおかげで少年が助かったことは承知しています。見過ごすべきだったとは微塵も思っていません。その上で言いますが貴方はもう少し自分を大切にするべきです。今回は団長さんのおかげで大きな怪我などもなく終わりましたが、カイン殿はイデルバ王国を背負う将の一人。加えて貴方はフォリア様からの信頼も厚い。貴方を失うことはイデルバに取って大きな損失となり得るでしょう」
「ナマエの言うことはごもっともだ。だけどさ、やっぱり見過ごせないよ。俺の命一つで助かるなら安いもんだ」
この人はどうしてこうなのだろう。軽い口調で、さも当たり前のように、そんな言葉を吐く。
「それですそれ!私が言いたいのはどうしてそんなに死に急いでるのかってことです!貴方の命はけして安くなんかありません。もちろん助けるなとは言いません、ただその認識を改めて欲しいんです!でないと、そのうち本当に死んでしまいますよ……」
「…………」

もはや祈りに近かった。文句でも説教でもなく。押し付けでしかなくともこれに関してはキツく言わなければならなかった。本人に届いてほしかった。
はっきり言おう、私はカイン殿を喪うことが怖い。アベルさんのときのような想いをするのはもう御免だ。今回は良くても次は無事とは限らない。次も良かったとしても、それを繰り返せばその時はいずれやってくる。

「カイン殿。貴方が思っているよりカイン殿の命は軽くありません。貴方を大事に思っている人はたくさんいます。そのことはどうか忘れないでください」

言いたいことを言い終えて踵を返して素早く立ち去る。想いを吐露したことに後悔はないが、みっともなく感情的な姿を見せてしまったことに対する羞恥が湧き上がってきた。次会うときはどう顔を合わせたものか。しばらく仕事に身が入らなかったが後日、何事もなかったかのように飯に誘われて内心ホッとしたのはここだけの話である。

20190315

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