待ちに待った待望のゴールデンウィーク。とはいうが実質はただの三連休である。
 先日の会話からミコトは三日間のどこかで順平とゲームセンターで格闘ゲームをやろうという約束をしていた。が、しかし。

「勉強はしてるかい? ゴールデンウィークでテンションが上がるのはわかるけど、学生の本分は勉強。中間テストも実はもう二週間後。遊んでばかりであ、損でした……みたいなことにならないようにね」

 朝からこれである。なんだこのダジャレおじさんは。生焼けで出しちゃおうかな、朝ごはん。と、すっかり意気が削がれたミコト。手元のフライパンの上に並べられたベーコンはジュウジュウと音を立てている。

「別に勉強できなくても困らない。どの道卒業する前に“終わり”は来るんだから」

 いつもよりゆっくりめの朝ごはん。ミコトはベーコンエッグやパンが乗った皿を二人分置いて椅子に座る。
 卒業することなく終わることをミコトは知っていた。
 だから勉強したくない。一見筋は通っているように見えるが、ほぼほぼ駄々っ子の言い分である。そんなミコトの成績は悲しいかな、中の下程。勉強を怠ればどんどん成績は落ちていく。去年は大目に見られていたが、さすがにそろそろ見逃してもらえなかった。

「ま、それも一理あるんだけどね。でもほら、一応今の僕は君の保護者という立場だろう? 勉強しなくていいなんて口が裂けても言えないよね。その上理事長先生なわけだし」

 つまるところ世間体の話だった。
 いずれ“終わり”は訪れるが、それまでは普通の生活がある。
 仮にも月光館学園理事長の姪の成績が下から数える方が早いです、なんてことになればいくら当人たちがよくても困る人は出てくる。

「すればいいんでしょ、すれば」
「そう、その意気。といっても嫌々やるのでは捗るものも捗らないだろうし……うん。中間テストで学年二十位以内に入ったら寿司でも食べに行こうか」
「寿司!」
「回らないやつでいいよね、ご褒美なんだし」
「回らない寿司!」

 回らない寿司の魅力でテスト勉強は乗り越えられそうだった。順平との約束は中間テスト後にしてもらおう。パンをかじりながらそう思った。

「あ、フェザーマン始まっちゃう」
「勉強頑張ると言った矢先にこれかい?」
「これは別!」


 巌戸台分寮ラウンジ。一人の男の叫びが響く。

「──というワケで、ミコトッチから断りの連絡が入って予定は白紙になりました! チクショー! 誰かオレを誘えー! サヨナラ、オレの青春……ッ!」
「朝からうるさい。てか何? あんた断られたの?」
「そーそー。ミコトッチ、いきなり勉強やるから! なんて言い出してさ。ゴールデンウィークですよ、ゴールデンウィーク! しかも中間テストは二週間も先! ミコトのヤツ、正気か!?」
「あ、そっか。テスト近かったんだっけ。あんたも頑張んなさいよー」
「そういうゆかりッチはどこかお出かけ?」
「友達と映画。って、ヤバ。もうこんな時間。じゃあ私行くから」
「行ってらっしゃーい……、いいね、予定がある人は」

意気消沈。燃える前に燃え尽きた順平の隣を有里が通り過ぎていく。

「なー、有里。ヒマだろ? な? な?」
「予定があるから」

 現実は非情。「うるさいぞ、順平」項垂れる順平に真田の声が降り注いだ。

20190618
20200829 修正


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