「もし、今までやってきたことが、実は目的とは真逆の行為だったら湊はどうする?」
爽やかな秋の風がミコトと有里を隔てるように吹く。長鳴神社のジャングルジムの上で、ミコトはいたずらっぽく笑む。
もし、もしだ。ミコトの言うことが本当だったら。発覚したそのとき、有里はどう動けるのかわからなかった。

──10月25日。ミコトの誘いで有里はミコトと並んで街を歩いていた。特に目的があるわけではない。強いて言うなれば、歩くことこそが目的。「全部終わる前に、湊と街を見ておこうと思って」影人間が溢れたこの街を、彼女はどう思っているのだろう。ところどころで親子連れが見受けられる、そんななんでもない日曜日の午後。

商店街ではがくれのラーメンを食べたり、小豆あらいの和スイーツを食べたり。古本屋に寄ってみたり、たまたま他校のエースである早瀬と出くわしたり。ポロニアンモールのゲームセンターで遊んだり、薬局や交番に寄って必要物資を調達したりとなかなかに有意義な休日を過ごした。

モノレールに揺られながら、海を見る。夕陽を受けてオレンジに煌めく水面。いつもと変わらない、ありふれた景色のはずなのに、それがたいそう綺麗に思えた。
「運命……っていうのかな。湊を初めて見たとき、何かを感じた」

四月。始業式のあの日、目と目があった瞬間二人は何か運命めいたものを感じた。お互いの中に宿る何かが、共鳴しあったのかもしれない。十三番目、死神のアルカナを持つミコトと無限の可能性を秘めた有里と。

「奇遇だね。僕も君に運命を感じているんだ」
「近いんだよ、私たち。誰よりも死に近い」
「死……ってなんだろうね」
ミコトの視線は窓から有里へ移る。

「死なんて明日目覚めなくなるだけ。それだけのはずなのに……どうしてかな。荒垣さんのことはとても悲しかった」
荒垣の死を経て、新たな決意がミコトの中に芽生えていた。誰も殺させない、殺させる前に片を付けると。滅びはいつかやってくる。本能的にミコトはそれを感じ取っていた。しかし。それまで有里たちには生きていてほしいとミコトは願う。

「この世界では毎日何人もの人が死んでいる。何処にでもあるものだったのに、不思議だね。僕もそう思えなくなったんだ」
有里の脳裏に浮かぶのは、たまにやってくる友達の姿。彼の言ったように、有里もまた死を他人事のように思えなくなっていた。

最後に、二人は長鳴神社へと足を運ぶ。お賽銭を入れようと財布を漁るミコトの姿に倣うように、有里もまた財布を出す。二礼二拍手一礼。本来の御利益とは少し違う願いを、二人はそれぞれ込めた。
その後、敷地内の公園へと二人は向かった。ジャングルジムを登るミコトの下で、有里はベンチに座っている、顔見知りの青年に挨拶の礼をした。

「そういえば湊、成績トップだったって聞いた」
有里の眼前に迫るミコトの顔。足を引っ掛けて逆さにぶら下がる彼女の髪が有里の顔にかかり、「近い」と言葉を漏らす。
「そういうミコトも今度こそ二十番内に入ったって聞いた。おめでとう」
二学期中間のテストでとうとう有里は学年トップに躍り出た。おかげで有里ばかりが注目されていたが、ミコトもきっちり念願の十番代を果たしていた。
「ありがとう。じゃなくて私のことはいいの」
ミコトは腹筋の力だけで起き上がり、ジャングルジムの上から有里を見下ろした。
「だからこれはそんな湊にサービス……いや、ボーナス……?」
言葉を選んでいるようだが、それでも言いたいことはなんとなくわかる。
「なにをくれるの?」
期待を見せる有里とは裏腹に、ミコトは意地悪な表情を作り、笑う。

「もし、今までやってきたことが、実は目的とは真逆の行為だったら湊はどうする?」

予想だにしなかったミコトの問い。有里は答えることが出来なかった。夕陽を背負ってミコトは有里を見ていた。果たして、その真意は。

20190718


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