その日の夜、寮のラウンジにはミコトの姿があった。今日は泊まっていくといきなり現れたミコトを、寮生たちは歓迎した。「せっかくだし夕飯作るけど」ミコトの手にはキッチンから持ってきた料理本。荒垣が置いたままにしたものだった。

「ミコトッチのゴハン! いやー、いいですなー。なあ、お前もそう思うだろ?」
「たしかに楽しみだ」
「順平……あんたチドリンはどうしたのよ」
「もちろんオレはチドリ一筋だぜ。ケド、女子の手作りに喜ばない男なんてどうよ? ホントに男か?」

順平の論はさておき、ミコトの申し出に寮は華やいだ。美鶴と真田は楽しみだと笑っているし、風花と天田は手伝うと申し出る。「コロマルさんも楽しみだそうです」アイギスはコロマルの気持ちを言葉で表す。荒垣の死から三週間。彼の死を皆が皆乗り越えたわけではないが、最後の戦いに向けて前を向こうとしていた。

しばらくして、食欲沸き立つ匂いとともに食卓に皿が並べられた。リクエストを聞いたものの、結局意見はまとまらず、キッチンにある材料も踏まえて無難にカレーとなった。
「これが幾月サンが一週間三食食べ続けたという……」
「あれは……そこまで気が回ってなくて」
ミコトは不自然に目線を逸らす。あれは不可抗力だった。その埋め合わせはしたし、ミコトも幾月もそのことはすっかり忘れていた。蒸し返されて少々ばつが悪い。

「わかるかも。献立考えんのもメンドいときってあるよねー。私なんかもうしょっちゅう……順平、なにその顔」
「いやー? いつもなら“バカじゃないの?”って言うよなーって思ってさ」
「ミコトになんでそんなこと言わなきゃいけないの? バカじゃないの?」
「てか、バカじゃないの?」
「てか、バカ」
順にゆかり、ミコト、有里。この流れはもはや定番だった。
「三回言うなー! つか有里、オマエに言われても嬉しくねーんだって!」
「え……私たちなら嬉しいワケ……? うわ……」
「うん、そうなのゆかりッチ。実はちょっぴりー。……じゃなくて冷めちゃう前に食おうぜ。もうガマンできそうにねー。いっただっきまーす!」

スプーンを取り、がつがつとカレーを食べる順平。皆もそれに続き、スプーンを手に取り、一口、また一口と口に運ぶ。
「うんウメー! ミコトッチサイコー!」
「ブリリアントだ!」
「お野菜は私が切りました。サラダは天田くんで、カレーの味付けは全部ミコトちゃんです」
「へー、天田くんがこのポテサラ作ってくれたんだ。すごく美味しい」
「そ、それは荒垣さんがメモを残していておいてくれたおかげで……いえ、ありがとうございます。ゆかりさん。美味しいって言ってもらえて嬉しいです」

ゆかりの言葉を天田は素直に受け止める。荒垣の残したメモにはコロマルの餌の作り方まであり、ミコトと天田でそれも作った。アイギス曰く「荒垣さんとは別の美味さがある。たいへんご満悦であります」とのことで、天田の口元は綻ぶ。

「うまいぞミコト。プロテインとよく合う」
「真田サン……。ミコトッチ的にあれ、アリ?」
「知らない見てない粉とか何もかかってない」
カレーとプロテインの相性は知らないが、せっかく作ったものにああもかけられては良い気はしない。しかし、真田に悪気がないことなど分かりきっているのでミコトは目の前で起きている凶行を必死になかったことにした。あくまで悪気はない。

「ミコト、おかわりってあるかな」
有里の皿は綺麗に空っぽだった。有里の食べっぷりに気を良くしたミコトは有里を伴ってキッチンへ向かう。

「カレーは飲み物。学校でそう聞きました。ミコトさん、わたしにもください」
いつのまにコロマルの側を離れたのか、アイギスもキッチンへと入ってきた。機械の身体で食べられるのか。ミコトは疑いの眼差しを向ける。
「……アイギス、食べられるの?」
「飲み物であれば」
「アイギス……カレーは飲み物じゃない」
「そうでありますか? なるほどなー」
有里の言葉にアイギスは頷く。
「……なんかいいね、こういうの」
ご飯を盛りながら有里は笑みを見せる。
「そうだね。すごくいい。悪い気分じゃない」
ミコトもまた微笑んで。有里の皿にカレーを盛った。

20190719


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