運命の日、5月25日──。
 ミコトは膝から崩れ落ちる。

「そんな、そんな……!」

 貼り出された紙には生徒の名前がずらりと並ぶ。今日は中間テストの結果発表日だった。『28位 幾月命』の文字は何度見ても目を擦っても変わらない。

「さよなら、回らない寿司……!」

 周りの生徒がミコトの奇行に引いて避けていくがそんなことを気にしている場合ではない。眼前にあったはずの寿司が遠退いていく。

「気持ちわかるぜ、ミコトッチ……!」

 順平はミコトの肩に手を置き、うんうんと同調を見せる。

「いやいや。ミコトの順位、私よりも上なんですけど……」
「……なんかゴメン」

 感じた手応えどおり、二十位以内に食い込んでいた有里はばつが悪そうに言葉を溢す。ミコトもそこはわかっているので「有里のせいじゃない」と立ち上がって言った。

「時すでにお寿司。じゃなくて遅し。吹っ切れるよ、私……!」
「まだお寿司に囚われてるよこの子……」

 ──元気を出して、ミコト。ミコトは己を鼓舞させる。
 残念ながら提示された結果を出すことは出来なかったが、それでもミコト史上最高の成績である。努力は無駄にならなかった。


 放課後の廊下、帰りに何か食べていこうと画策するミコトの目に止まるものがあった。
 窓に立て掛けられたそれを手に取る。それは一冊の教科書だった。この学年の生徒ならば誰でも持っているありふれたものだが、場所がどうにもおかしい。ミコトは訝しみながら教科書を裏返す。『2年E組 山岸風花』。それが持ち主の名前であることは明白だった。

 山岸風花といえば、ペルソナ使い候補として挙げられている渦中の人物である。曰く、身体が弱いとかで皆諦めムードが漂っていたが。
 なんにせよ教科書は無いと困るものだ。買い直すには少々手間が掛かることだし。

「これ」

 件の山岸風花はすぐに見つかった。人もまばらになったE組に顔を出せば、風花は血相を変えて何かを探しているところだった。
 E組に入るのは初めてだとミコトはぼんやりと思いながら、風花の元まで寄って教科書を渡す。

「廊下の窓に立て掛けられてた」
「ありがとう、ございます」
「じゃあ、それだけ」

 物を持ち主の元へ届けただけだというのに、なんだか居心地が悪い。それは風花によるものなのか、はたまたE組の生徒から受ける視線によるものなのか。

「……イジメ?」

 首を傾げるが、答えてくれる者はいなかった。

 商店街へと向かう途中、巌戸台駅を降りたところでポケットの携帯が鳴った。
 一件のメール。幾月からだった。寿司は駄目だがラーメンには連れて行ってくれるらしい。ミコトはウキウキと軽い足取りで目当てのたこ焼き屋へと向かった。


20190621
20200829 修正

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