帰りのフェリーは静かに海を行く。
行きとはまた違った静けさ。旅の終わり特有の寂寥感が場を支配する。
衝撃的な事実がいろいろと判明した旅行だった。しかし、総括してなんだかんだ皆、この屋久島旅行をそれなりに楽しんだ。
朝、船に乗る際、ミコトの荷物の多さに一同は引いた。土産の詰まったビニール袋が数個。自分で持ち切れず幾月にも持たせている始末だった。
土産と言えば。

一番の屋久島土産と言ってもいいアイギスは、何故かミコトを見つめている。
「どうしたの」
視線に耐えられなくなったミコトはアイギスに近付いて問う。機械の乙女のアイギスが何を考えているか、ミコトには分からない。
「一昨日、ミコトさんを初めて見た際、不思議な反応がありました」
淡々とアイギスは告げる。これにはミコトも覚えがあった。あの時アイギスに感じたもの。一瞬だったから、その日のうちに忘れていたが。
「ですが……今は感じません。センサーの誤反応と思われます」
「人物認識に続いてセンサーもかい? ……困ったなあ、やっぱり一度ちゃんと見てみないとだね」

ミコトとアイギス、両者が感じた何か。その正体に行き着くのはもう少し先の話である。



「友近、お土産」
夏休みまでまだ二日あった。試験休暇明けの朝、教室でミコトは買った塩クッキーを一つ、友近の手のひらに乗せる。
「……屋久島? へえ、ミコトさん、屋久島行ってきたの」
包装に書かれた文字を友近は読み上げる。
「おはよー。ってまたあんたは暑苦しい格好を……あ、ミコトソレお土産? やっぱり私も買えばよかったかも」
教室に入ってきたのは朝練終わりのゆかりだった。ミコトの紫のジャケットが復活していることに眉を寄せ、それからミコトの持っている箱に気付く。
とてもそんな気分じゃなかったとはいえ、ミコトが配っているのをみると、友達に何かしら買ってきてもよかったかもしれない。今更そんなことを言っても遅いが。
「あ、じゃあゆかりにもあげる。あとで箱ごと寮に持ってくね。昨日置いてこうと思って忘れてた」
「……え、まさか岳羽さんも屋久島?」
「おはよう」
「おはよーさん! 今日もトモチーは元気そうですなあ!」
「……いやいや、何処を見たら俺が元気そうに見えるんだ? ていうか、友近な」
有里に順平。戸惑う友近をよそに次々と賑やかになっていく。

「ああ、それだったんだ昨日の袋の中身」
有里は友近の手のひらのクッキーを見てなるほどと頷く。
「三日目居ないと思ったら、そっか。土産買ってたのな。っていうかオレも買えばよかったッ! あげる人いねぇケド!」
「いや俺がいるだろ。俺を忘れないでくれ、順平。つか何、まさか皆さんで屋久島行ったわけ……?」
一瞬の静寂。屋久島へ行った四人の視線が友近に集まる。無言、即ち肯定。
「あ、あと桐条先輩に真田サン。風花や理事長なんかもいたぜ……?」
フォローにならない順平の追い打ち。しかし、雲の上の人である桐条美鶴の名前を出されたことで友近はかえって冷静になる。
行けない方が普通なんだ、こいつらが幸運なだけだと友近は己に言い聞かせる。有里は彼の肩を叩き、今度ラーメンを奢ることを約束した。

──昼休み、職員室前の廊下に張り出された表を見てミコトはガッツポーズを作った。『26位 幾月命』の文字。二十位以内には入れなかったものの、前回よりも上がっている。期末は中間よりも範囲が広いから上々と言えた。点自体も前回に比べれば多少上がっている。今回は寿司がかかっていないから、素直に喜べた。一学期も残すはあと一日。明日を乗り切れば待ちに待った夏休みが訪れる。夏休みにやりたいこと。それはぼんやりとミコトの胸の内にあった。


20190630


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