桐条グループ総帥であり美鶴の父、桐条武治に呼ばれ、特別課外活動部の面々は神妙な顔で席に着く。武治直々に全てを話すとのことだった。

時を操る神器。
全ての始まりは武治の父、桐条鴻悦だった。彼の抱いた野望。
時の流れを操作し、障害も例外も全て起こる前に除ける。未来を意のままにする道具を作ろうとしたのが始まりだった。
だが研究は次第におかしな方向へと進んでいった。桐条鴻悦の乱心。内に生じた虚無感を打ち破るためのものだったのかもしれないと武治は語る。

桐条鴻悦。彼の存在があって、ミコトの人生は狂わされた。両親の死に始まり、一人残されたミコトは被験体として引き取られた。
実験は鴻悦の死後も続き、エルゴ研が解散すると同時にミコトはようやく解放された。しかし解放されたのは実験からだけだ。背負わされた運命と力からは逃れられない。それでもミコトが特別課外活動部の一員として、こうしてこの場に立ち会っているのは過去に交わした“約束”があるからだ。

降ろされたスクリーンに映像が映し出される。
「これは……?」
「現場にいた科学者によって残された、事故の様子を伝える唯一の映像だ」
映像の中の男は喋り出す。
当時の当主、桐条鴻悦は忌まわしい思想に魅入られ変わってしまったこと。実験は行われるべきではなかったこと。世界の全てが破滅したかもしれなかったこと。飛散したシャドウをすべて消し去ることこそが、悪夢の方法だと語った。

──でも、それは違う。全て消そうとするのは間違いで、むしろ逆効果であることをミコトは知っていた。岳羽詠一朗。当時の研究主任であった彼がそんなことを知らないのはおかしいとしか思えない。いったい何故そんな間違いを。武治も映像の中の彼の言葉を信じている様子だった。なら、自分が嘘の情報を教えられた? その問いに答えられる者は誰もいない。

「つまり……私のお父さんがやったってこと……?」
岳羽詠一朗はゆかりの父だった。ゆかりの中で、何かが崩れ去る。信じていたはずのものがいとも容易く流れるように崩れ落ちていった。愛した父が、全ての元凶だったという絶望。

「じゃ……色々隠してたのってホントはこれが理由? 私に気遣って、隠してたってこと? そういうことなの……!?」
ゆかりの悲痛な叫び。
「岳羽、それは違う、私は……」
「かわいそうとか、やめてよッ!!」
美鶴の静止も虚しく、ゆかりは外へと駆け出して行ってしまう。ゆかりの行動も最もだ。もし自分があの立場にいたら、取り乱さずにはいられないと誰もが思うだろう。
それに全ての元凶は桐条鴻悦だ。何も言えないもどかしさを感じたミコトは、手を強く握りしめる。
ゆかりを追いかける有里の姿を、ミコトはどこか冷めた気持ちで見ていた。


鬱々とした静寂を破ったのは武治だった。
「君が幾月に引き取られたという少女だな」
「えっと、」
「はい、彼女がそうです。……何かおありでしょうか?」
突然のことに言葉に詰まったミコトの代わりに美鶴が答える。
武治は強面だ。眼帯の存在も加わり、ミコトは萎縮してしまう。なんというか、居心地が悪い。見定められているかのような目だと感じた。
「君に話がある」
「私に?」

通された別室で、ミコトは流されるままに椅子に座った。
「幾月とはどうだ」
「よくしてもらってます」
普段敬語を使わないミコトも、さすがに武治の前では敬語を使わざるを得なかった。
表面上幾月とは、保護者と被保護者として円満な関係を築けている。

「本題に入る。君のご両親のことだ」
「私の、両親……」
予想してなかったまさかの展開。ミコトの両親は十年前、事故で亡くなっていた。爆発事故とは無関係の、当時の桐条が起こした小さな事故。
「事故の責任は桐条にある。それは変わらない。だが……どうにもおかしいのだ。当時の記録を漁れば漁るほど、作為的なものだと思えてならない」
「…………」
両親の顔は、覚えていない。十年も前だ、記憶も薄らぐ。写真なども残っていなかった。
両親の死。引き金となった事故が作為的なものである可能性。
思えば。自分が何も知らないことに気が付いた。両親の死、あの場所で自分が“奇跡の子”と呼ばれていた理由。そして覚醒したペルソナの特異性。昼に有里に話した十二のカテゴリ。ペルソナ使いにも適用されるその定説をミコトは打ち破った。知られざる十三番目が確かに存在することを示してしまった。
しかし、何故自分なのだろう。生まれついての特別には思えない。
「この件については既に調査を開始させている。新たなことが判明次第また話そう」
「……お願いします」

失礼します、と断りを入れて腰を上げるミコト。退室しようとする前に、武治は止める。
「待て」
「?」
「君に頼みがある。……君にしか頼めないことだ」

20190628


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