8月16日。
 今日は長鳴神社の祭りの日だった。

 朝、有里やゆかりからお誘いの電話があったが、昨日の夜のうちに誘いを受けてしまったために断った。
 フェザーマンRを見ながら遅めの朝食を取る。今日のフェザーマンは影が暴走する話だった。先日退治した、例のシャドウの姿が脳裏に蘇る。不思議なシャドウだった。人型なのもあってか、何処か動きも人間らしかったように思える。
 昨夜、ミコトを祭りに誘ったのはジンだ。会ったときにこの間のシャドウの詳細を訊けばいい。

 祭りといえば。

「……普段着でいいか」

 浴衣という選択肢を考えたが、ミコトは浴衣を持っていない。寮の女性陣に借りるとか、あるいは美鶴に言えば手配してくれそうなものだが、誰と行くとかそういったものはあまり突っ込まれたくない。彼女たちにとってジンは敵だ。

 ──これは裏切りなのだろうか。改めてミコトは思う。
 普段は関わりがあったとしても満月の日に立ちはだられたそのときは、いつでもやれる心持ちだ。ジンたちストレガもそれを知って、かつ自分たちのやりたいようにやる。
 それで充分だろう。あまり理解はされそうにないが。
 よくよく考えたら特別課外活動部の彼らをミコトは最初から裏切っている。なら今更大したことじゃないと心の隅へ追いやった。

 とにかく、今日の祭りはジンとイズミ、そしてイズミの世話になっている女性の子供との四人で楽しむことになっている。
 ──屋台とか何食べよう。祭りに行くのは初めてだった。誰かと行く祭り。きっと楽しいのだろう。


 ジンと巌戸台駅で落ち合い、長鳴神社へと向かう。

「なんやおまえ変わらんやないか」
「浴衣持ってない」
「そんなん影時間の間に盗んできたらええやろ」

 その言葉にジンたちの生活を垣間見た気がした。これ以上突っ込むのは野暮な気がして、話題を変える。

「この間のシャドウ、なんだったの」

 単なるイレギュラーなシャドウにしては大きく、また耐性も高いようだった。あのとき、考える間もなかったからとりあえず何にでも効く万能属性で攻撃を仕掛けたが、大きなダメージは与えられていないように見えた。

「わからん。ただアイツはシャドウを喰ろうてた……シャドウ喰らい、わしはそう呼んどる」
「シャドウを喰らう……、シャドウ喰らい」

 シャドウを喰らうシャドウなど聞いたことがない。それにあれは本当にシャドウなのだろうか。少しの間しか対峙してないとはいえ、ミコトの勘はシャドウではないかもしれないと告げている。

「次会うたとき、わしはアイツを倒せるんやろか……」

 ジンらしかぬ弱音。ジンもあのシャドウには、感じるものがあった。

 待ち合わせ場所の神社の前に着いて、道の端に寄って待つ。人手のピークを過ぎた、遅めの時間にやってきたから、神社から出てくる人が多い。祭り特有の熱に当てられて、ミコトもジンもどこか浮き足立っていた。

「なにやってんの?」

 いきなりさっとジンが電柱の影に隠れるから、ミコトは怪訝そうな顔で問う。「おまえんとこのアイツや!」ジンが指した方向を見れば、有里の姿。隣に誰かがいることはわかるが、他の人に隠れてわからない。
 何も隠れることもないのに、とも思うが、ジンと一緒にいるところを見られるのはおそらくまずい。声をかけずに有里たちの背中が遠ざかるのを眺めていた。


「お。もう来てたのか」

 イズミが、世話になっている女性の娘、紗耶の手を引いてやって来た。ミコトは紗耶の朝顔柄の浴衣を見て、自分も浴衣を着てくればよかったかと若干後悔する。

「あ、デコのお兄ちゃんだっ」
「誰がデコやねん、誰が──、そんならコイツはなんなんや」

 ジンは隣でぼさっとしていたミコトの肩を掴んで、紗耶の前に出す。ミコトの赤いリボンが大きく揺れた。

「……赤いリボンのお姉ちゃん?」
「ヒーローの赤。ふふ、いいでしょ」

 自分自身はヒーローとは程遠いが。赤のリボンを紗耶が見やすいように引っ張って見せる。

「ほな、行こか」

 ジンの言葉を合図に、四人はぞろぞろと境内へと向かった。


20190705
20200830


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