──5月9日、影時間。
 イレギュラーの大型シャドウが巌戸台とポートアイランドを結ぶモノレール内にて出現。有里、ゆかり、順平のペルソナ使い三人と、バックアップ要員の美鶴が現場へと向かう。右も左もわからないまま、手探りで対処する一行。道中少しのトラブルがありながら大型シャドウを倒し、シャドウの力によって加速したモノレールを命辛々、すんでのところで止める。生きた心地がしないとはこのことだった。

「起こしてくれてもいいのに……」

 翌朝、加熱したフライパンの上で卵を割りながら、ミコトは一人ごちる。
 朝のニュースは新都市交通あねはづるの列車オーバラン事件で持ちきりだった。
 事件の不可解さと朝帰りしてきた幾月を見れば嫌でも影時間絡みのものだと気付く。布団の中の眠そうな幾月をつついてようやく、件の事件が例の大型シャドウによるものだという答えを得た。

 呼ばれたときに起こしてくれてもいいのに。
 と思うも、昨日は二十三時半くらいまでの記憶しかない。思うに、勉強途中に襲ってきた睡魔に負けてそのまま寝た。
 しかし起こされれば起きていた。大事件の最中、知らず眠りこけていた罪悪感を幾月のせいと転嫁する。起きていたからといってペルソナを使えない以上どうすることも出来ないのだが。

「あ、フェザーマンの時間だ」

 今日は日曜日。疲れ果て死んだように眠る叔父の分の皿にラップを被せて、テレビの前へと向かった。


 週が明けて月曜日、通学路でミコトの姿を見た順平は調子良く満月の晩の事の顛末を話す。

「──で、オレたちが事故を未然に防いだってワケ! 凄いだろオレたち! ミコトッチも来ればよかったのにさ」
「寝てたら置いてかれた」

 幾月がミコトを置いていった理由は主に移動手段にあったのだが、ミコトがそれに気付くことはなく。一応自転車は二台あるのだが、片方はつい最近パンクしたばかりで放置していた。ミコトが走りながらだと飲み食いできないから自転車には極力乗りたくないという考えの持ち主であった。通学もモノレールで十分であるし、必要に迫られなかったために修理することを引き延ばしにした結果である。
 影時間の中、全力で自転車を漕いだ幾月はちょうど今朝くらいから筋肉が痛み始めたらしい。しばらく動けなさそうだと、困ったように笑っていた。

「伊織は私のことどう思ってるの」

 気になっていた疑問を試しにぶつけてみた。影時間を共有する同士ではあるが、その差は大きい。現に先日、作戦に加わらなかったばかりだ。他人からの評価など基本的には気にしない質だが、巌戸台分寮の面々には悪く思われたくないという気持ちが、出会いを経てミコトに芽生え始めていた。

「え? 無愛想なのがキズだけど大食いなトコは可愛いし料理も上手くてステキだなーとは思いますケド……」
「言葉が足りなかった。影時間に適性があるだけの私をどう思ってるの」
「そりゃ仲間じゃん? ペルソナ使えなくてもミコトッチだって特別課外活動部の一員なんだろ?」
「仲間……」

 あまりにもさらっと言ってのけるから、ミコトは順平のいる方とは逆を向いた。
 良く思われているのは何よりだが、しかし自分は嘘を付いている。現在進行形で彼らを騙している。自分から質問をしておいてなんということか。
 後ろめたさがミコトを襲う。最低最悪の人間とはまさに自分のことだ。しかし後戻りできないのも事実だった。

20190619
20200829 修正


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