愛しさなどではない。純粋な恐怖が私の胸中を占める。どんどんと開かれる自身の身体と、聞いた事もない甘い声。自分が自分でなくなる感覚に私はとことん恐怖した。
はらはらと涙を零し、せめてもと、その人にぎゅっとしがみつこうと腕を伸ばす。しかしその腕が肩に回る事はなく、真っ白なシーツに逆戻り。それがまた悲しくて私はグッと唇を噛んだ。

ああ、本当になんでこんな…美しい金色の瞳から感情は読み取れない。ガクガクと揺さぶられ息が荒くなる。あ、もう限界が近いのだと人事のように思った。


「ナマエ…っ」


鼓膜を刺激した音に私は驚いた。この行為を始めてから、一度たりとも彼は言葉を発していなかったのだ。涙がまた零れ落ちる。何度も何度も掠れた声で名を呼ばれ、その度に私は涙を流しながら頷きを返す。
理由は分からない。けれども今なら振り払われない気がして腕を伸ばした。


「ナマエ、ナマエ…」


ぎゅっと指と指が絡み合う。そのまま強い力でそのまま引き寄せられ、顎が肩にぶつかりじんわりと痛んだ。その痛みすら幸せだと感じてしまうのは私が愚かゆえなのだろうか。息のつまる音がして二人でシーツに倒れ込む。再び訪れた沈黙を破ったのは思いのほかその人の方だった。


「お前が…お前が陛下を好いていたとしても…」


それに私は目を見開き、身体を硬直させた。まさか、そんな…心臓がドクンドクンと音を立てうるさい。


「今お前を抱いているのは…この俺だ」


なんて誤解だ。今すぐに答えを返したい。私の好きな人はね、そう声にしたい。けれど聞きたくないと言うように抱きしめる力は強まるばかりで…。
せめてもと、絡めた指に力を込めた。


伝われ、伝われ/111116