目の前で精一杯背伸びしてこちらに手を伸ばす愛しい少女を前に、ガイアスは珍しく反応に困っていた。

ナマエが背伸びをしだして、かれこれ数分が経とうとしている。執務を続けようにもずっとこうでは気が散って仕方がない。普段ならこんな困らせるような事は絶対にしない物分かりの良い少女なのだが…ガイアスは普段の無表情を少し困ったものに変え、ナマエの頭にポンと手を置いた。


「先ほどから何だ」

「うわぁ」


もう足が限界だったのだろう。こんな小さな衝撃にさえ耐えきれずナマエの小さな身体はガイアスへ向かって倒れ込む。
いとも容易くそれを受け止められ、ナマエは頬を赤くしガイアスを見上げる。その表情を見てガイアスは驚いた。瞳にうっすらと反抗の色が見えていたのだ。


「ガイアスさん鈍いです!」


何故このように言われなくてはならないのかガイアスにはさっぱり検討がつかなかった。自分は何時も通り執務をこなしていただけであって、ナマエの機嫌を損ねるような事は何もしていないはずだ。けれどナマエからするとそうではないらしい。

陛下!とウィンガルの叱咤が聞こえた気がした。


「ガイアスさん?」

「残念だが俺にはお前からそう言われる理由がさっぱり分からん。お前が何をしたいのか、教えてはくれぬか?」

「……ズルいです」


文句のつけようもない、大人な対応だった。
一気に自分が子供に思えてナマエは悔しいと唇を窄める。
いつの間にか瞳から反抗の色は消えていた。


「なら…しゃがんで下さい」


言われた通りガイアスはナマエの目線に合わせ身体を曲げる。高身長ゆえこの体制はつらかったが、ナマエが望んでいるのだからと我慢した。

先ほどより随分と近づいた目的にナマエは今度こそ手を伸ばす。急ぐ気持ちを抑え、想いを込めてゆっくりと。そっと触れた手に息を呑んだのはどちらだったのか。


「ナマエ…?」

「何時もお疲れ様です」


目の前で愛しい少女が照れながら笑っている。
普段なら抱きしめたい所だがガイアスは動けなかった。
左右に揺れ続ける手の温もりは、振り払うには余りにも暖かい。


なでなで/111011