「おこた気持ち良いですねー」

「……」

「なんか頭がボンヤーリしてきます」

「一度外に出てこい」


いやいや、そんな殺生な。
ようやく口を開いたかと思えば、呆れたようにそう言った陛下に私は首を緩く振った。あ、頭がグワングワンして来た。


「朝からずっと入っているのだろう」

「だっておこたが私から離れたくないって言ってるんです」

「はあ…」


何もため息つかなくてもいいじゃないか。
少しだけムッとして、家臣としてあるまじき事に私は陛下を睨みつけた。もし、ここにウィンガルがいたら百パーセントの確率でライトニングノヴァを喰らっていただろう。あれ痛いからやなんだけどなあ。って、今度は目が霞んで来た。


「うー…」

「いい加減にしてはどうだ」


暖かい炬燵の中と、冷たい机の感触がミスマッチながら気持ち良い。
思わずスリスリと頬ずりするとなんとも言えない陛下の視線が背中に突き刺さった。
それでも炬燵から出るのは嫌でまた首を横に振る。けれど陛下も簡単には引き下がらなかった。このままだと実力行使で炬燵と引き離されてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
億劫ではあったが、のそのそと炬燵から這い出し陛下の横に移動する。そしてスッポリと身体を入れ込んで顔を出した。蝸牛状態である。


「何をしている」

「一応炬燵からは出ましたよ。それに陛下、私の体調を心配してくれてるんでしょ?」

「自意識過剰だな」

「えへへ」


呆れ混じりな声に笑って返し、陛下の腰に抱きつけば、陛下がピクリと身体を震わせた。


「…暑い」


口ではそう言いつつも、引き離さない辺り、内心嫌ではないらしい。その証拠にほら、こうやって髪を撫でてくれている。微睡みの中、私は上目使いに陛下を見上げた。赤い目は何も言わず私を見守っている。


「こう言うのを幸せって言うんでしょうね」


その言葉に、珍しく陛下は驚いているようだった。
でも暫しの沈黙の後、ふっと小さな笑い声が聞こえ、私はまた「えへへ」とだらしなく頬を緩めた。


私的幸福論/111006