「ははーん。さてはナマエちゃん恋してるな?」


食事も入浴も終え後は寝るだけという頃。宿の外で涼んでいた私の元に突然現れたアルヴィンはニヤニヤとだらしなく頬を緩めてそう言った。
そのにやけ顔が凄く腹立たしくて、当たり前のように横に座ったアルヴィンの足を思い切り踏んでやる。


「いって!」

「セクハラ反対」

「たったこれだけでかよ!」

「今度図書館に行って辞書引いてみなさい。私の言ってる意味がきっと分かるから」

「残念ながら俺読書は好きじゃねぇの」


だと思った。
口には出さず呆れ顔をすれば何が楽しいのかアルヴィンはにやけ顔のまま私の顔を覗き込んで来る。無駄にイケメンな顔がすぐ側にあり、これには腹立たしさも二倍だ。垂れた目尻に人差し指を当てグッと上げる。一気に釣り目になった茶色の目に思わず私が吹き出してしまった。


「ナマエちゃーん、いてぇんだけど?」

「アルヴィン、釣り目の方が格好良いよ?ぷぷ」

「笑ってる時点で絶対そう思ってないよな」


しかし人の目尻を弄るのも中々楽しい。垂れ目をますます垂れ下がらせたり、横長にしてみたり、これでもかと言うくらい釣り上げてみたり。
それでもアルヴィンはあのにやけた顔のまま全く抵抗する気配すらない。


「でさ、ナマエちゃん」

「なあに?」

「そろそろ俺の質問に答えてくんね?」

「……ああ」


そう言えば『恋してるだろ?』なんて聞かれてたな。
目尻を弄る事は止めず思い出していればアルヴィンが動いた。夜の静寂をパシッと言う音が切り裂き、若干の痛みを伴って私の両手はアルヴィンの目尻から離された。


「アルヴィン…?」


私よりも一回り以上大きな両手が私の両手を包んでいる。ギュッと確認するように握りしめられれば思わず言葉に詰まる。


「俺は恋してるぜ」

「は、誰に?」

「ん…当ててみな」


意味が分からない。
何で私が恋してるって話題から自分の恋愛話になるんだ。反射的に問いかけてみて少し後悔する。アルヴィンが好きな人、思い浮かぶのはミラやプレザなど私とは比べ物にならないほど心身共に素晴らしい女性達。
万に一つも私に勝ち目は…ない。

アルヴィンの言う通り私は恋をしていた。
他でもない、今目の前で私の両手を取っているこの人に。


「分かる訳ないじゃない」

「なら正解言ってやろうか」

「うん、言って」


もうアルヴィンはにやけ顔をしてはいなかった。
垂れた目から注がれる眼差しは真剣そのもので、心臓が一度大きく跳ねる。嗚呼やだな、ドキドキする。形の良い唇が動くまでがとても長く感じられた。


「俺が好きなのは、お前だよ、ナマエ」


ずっと私はこの言葉が欲しかった/111228