外見とは裏腹に、嫉妬深い男だとは知っていたがまさかこれまでだったとは。怒りの色が浮かぶ金の双眼に私は困ったようにため息をついた。
私はただ以前助けられた兵士に礼を言い、軽い世間話をしていただけだ。今日はあまり雪が降らなくて良かったですね、なんて言うたわいもない世間話を。それなのに、突然現れたウィンガルは背後から兵士の首に鮮やかな手刀を決め、挙げ句、その兵士が伸びている横で驚く私を壁に押し付けているのだから、もうため息をつくしかない。


「余裕そうだな」

「あなたの嫉妬にはもう慣れちゃったからね」

「…その憎まれ口がどこまで持つか見物だな」


そう言い終わるか、あっという間に塞がれた唇。割り入って来た舌は散々私の口内を蹂躙して、ようやく離れた頃悔しい事に私の息はもう絶え絶えだった。思わず細い肩に寄りかかり、顔を見上げれば、腹立たしい事にウィンガルは全く息を乱していない。

心底楽しそうな表情を浮かべ、ウィンガルは白く細い指で私の顎を持ち上げ、グッと顔を近づける。


「ここで続けるか?」

「…絶対にいや」

「なら肩に手を回せ。どうせ立てないんだろう」


続けるのは前提なのか。
睨んでも素知らぬ顔でウィンガルは私を抱き上げる。
段々と遠ざかる兵士の姿に私は声を上げた。


「嗚呼、名前され知らぬ哀れな兵士さん。なるべく早く人に見つかるよう祈っているわ」

「どこの詩人だ」

「カン・バルクの詩人?」


運良く誰にも見つかる事なく到着したウィンガルの私室。
きっと暫く私はここから、ひいては寝台から出られないんだろう。遠く行き交う人波に思いを馳せて、私は遠ざかる扉へ手を伸ばした。


詩人の歌声/112222