よ、ナマエ元気にしてるか?なんて見慣れた言葉から始まった手紙はアルヴィンからの物だ。エレンピオスとリーゼ・マクシアを繋ぐなんて夢のためユンゲルスさんと共に忙しい毎日を送ってはいるが、文面からして元気にやっているらしい。手紙を小箱の中に入れ込むこの作業にも、もう慣れてしまい、シンと静まり返った室内にガチャンと鍵の閉まる音だけが響く。

ジュードが纏めた源霊匣の資料に手を伸ばし目を通すけれど正直、あまり頭に入って来ない。あの馬鹿からの手紙で集中力が切れたのだろうか。気分転換を図って長椅子に寝転がる。


「(いや、辛いんじゃなくて…寂しいのか…)」


そう言えば最近あいつの顔が良く浮かぶ。何時も飄々としていて、子供っぽくて、そのくせ辛くても涙を我慢しているような人。大の大人が情けない。旅をしていた頃は良く呆れていたけれど今はあの子供がとても恋しい。


「ちょっとくらい顔見せればいいのに…」


ばぁか


「誰が馬鹿だって?」


久しく耳にしていなかった低音に微睡みかけていた意識が覚醒する。はっとして見上げた先にはあの茶色の垂れた目があって。


「なに、してんの?」


情けなく声が震えた。


「可愛いお姫様に会いにきたんだ」

「夢?」

「まさか」


よっと、なんてかけ声と共にアルヴィンは私の横に寝転がる。狭い長椅子で自然と密着した肌から伝う温もりは今これが夢ではないのだと伝えていた。


「悪かったな、寂しい思いさせて」

「……本当にね」

「お、えらく素直だな」

「何にやけてんの馬鹿」


そう言って頬をつねってもにやけた顔は直らない。むしろ逆効果になったようで、したり顔で人の肌に触れて来る。
それでも悪い気はしないから暫く放っておいたけど、


「調子に乗らないでよ馬鹿」


これ以上はさすがにダメ。
私のボタンに手をかけながら不満気なアルヴィンに、仕返しとばかりに私は意地悪く笑って見せた。


馬鹿はどちらか/111222