溢れ出た血を見つめ、歪な笑みを浮かべる幼なじみに俺は何も言えなかった。いや、言わなかったんだ。悲しいがこいつのこう言う行動には慣れてしまっている。
ぱっくりと割れた傷口は何時見てもグロテスクだ。棚から包帯を取り出し慣れた手つきで止血すると俺は反対側の腕を取った。ナマエを傷つけないように優しく細心の注意を払って。


「ジュードの所に行こうぜ。傷、治さないとな」

「……アル」


風にすら掻き消されてしまいそうな、か細い声が俺を引き止める。ん?と後ろを振り返ればナマエの泣きはらした瞳がぼんやりと俺を見つめていた。


「お願い、お願いだから…」


声が段々聞こえなくなる。
腕を離すとナマエは支えをなくした人形のように床に座り込んだ。


「もう私から離れないで…」


予想通りの言葉だった。
目線を合わせるため膝をつき、ナマエの肩をそっと抱き寄せる。ナマエの細い身体は意図も容易く俺の腕の中に収まった。


「大丈夫だ。もう絶対に俺はお前から離れない」


優しく聡明だったナマエと言う女性をこんな風にしてしまったのは他でもない俺だ。
大丈夫よアルフレド。
そう言って毎回笑顔で背中を押してくれたナマエを一人残して俺は世界を飛び回った。何時か母さんと故郷に帰るため、ナマエを安心させてやるために。でもその笑顔がナマエなりのSOSだと気がついた時には…全てが遅かった。
自ら綺麗な肌に傷をつけ涙を流して笑うナマエを俺はただ抱きしめる事しか出来なくて。それが回数を重ねるに連れ段々と俺の感覚は麻痺し…最終的には“こう”なった。


「お前の傷だらけの手も俺は好きだぜ」


きっと俺はこの手首の傷を一生愛おしく思うのだろう。
くしゃと泣き笑いをしたナマエの瞳は相変わらず優しいままで、俺の歪んだ表情が映らない事を切に願った。


痛みすら愛おしく/111201