「ウィンガルギューッてして」


満面の笑顔で両手を広げ、計算したように小首を傾げたのは俺にとって愛しい女だ。世間から恋仲と呼ばれる彼女は腕を揺らし、早くと急かしてくる。
待て待て待て。確かに今日の仕事は終わったが、ここは執務室だぞ。いつ誰が来るとも分からないここで抱きしめられると思うのか。視線で問いかければナマエは唇を尖らせた。


「陛下はしてくれるもん」

「は?」

「ギューッって言ったら陛下はしてくれた、ってうわっ」


思わず俺はナマエの腕を引いていた。力強く強引に腕の中に閉じ込めて大きく息を吐く。すると腕の中の彼女がクスクスと笑い出した。


「何がおかしい?」

「…まさか、あんな嘘に騙されるなんて…!」

「嘘…?」

「うん。ウィンガルかわいー」


何が嘘なんだ?抱きしめて、と言った事か。それとも陛下に抱きしめられた事…なら嬉しい。ニヤニヤと見上げるナマエは願いが叶って満足そうだ。俺の胸に頬ずりして背中に腕を回す姿はまるで猫のようで。髪を撫でてやればゴロゴロと喉を鳴らしそうだと苦笑した。


「あれ?怒らないんだ」

「そんな事で一々怒ったりなどしない。それに…」

「それに?」


また小首を傾げるナマエ。
湧き上がった愛しいと言う感情に任せて指を頬から髪へ撫で上げ、そっと唇を寄せた。


「俺もお前に触れたかった」


騙し愛/111117