その背中を見ながら育った、と言えばちょっと語弊があるかもしれない。 でも私にとってあの人の背中がとても大きなものである事は変わりなかった。 いつかその背中を越えてやる、そして振り返ってみたい。 そう思ってたのに、今私が見つめる背中はとても小さく弱々しいものだ。 「なんで…なんでこんなになるまで…っ」 ただでさえ細身のくせにますます細くなった腕を引きその場に押し倒し、思わず私は叫んでしまった。 ウィンガルは私を金色の瞳で見下ろし、されるがままになっている。 実験後で抵抗すら出来ないほど疲れてるのかもしれない。 「なんで貴方がこんな事までしなくちゃならないの…!こんな、こんな弱々しい姿を晒してまで……」 こんなの八つ当たりだ。 私は、こんな姿を見ておきながら何も出来ない自分に腹を立てているだけなのだ。 最初から分かっていた。 それでも言葉は溢れ出て止まる所を知らない。 薄くなった胸板をドン、と一度強く叩く。 一瞬ウィンガルの金色の瞳が揺れた気がした。 「…何故お前が、泣く」 「………え、」 力ない、冷たい手が私の頬に触れた。 あ、私泣いてたんだ…なんて人事のように思った。 ウィンガルは何度も何度も私の目元を擦り、そして、小さく苦笑を浮かべた。 「お前は昔から一度泣くと泣き止まないな」 おいおい今日は嫌に饒舌じゃないか。 冷たい手に触れ、私はゆっくりと口を開いた。 冷たい手を暖めたい/110929 |