※暖かさを知るといいの続き


ウィンガルが戦死したと聞かされたのは、陛下が帰ってきて数日後の事だった。
帰ってきたのが陛下お一人だと知った時、なんとなく予想はしてた。だから不思議とそんなにショックは受けなかった。ただ胸に大きな穴が空いたような、そんな喪失感が芽生えただけで。


それからまた数日と経たない内に陛下は激務へ戻られた。
前王を無くし混乱しているラ・シュガルの民や兵士を導くのも陛下の役目だ。
私もまた普段の生活に戻り、日々はなんら変わりなくすぎて行った。
本当に何も、何一つ変わらなかった。


「陛下、ウィンガルの遺体もないのですか」

「ナマエ…」


陛下の視線が痛い。
目を通していた書類をおき、陛下は私の手を取った。


「何度も言うようだがあの場所は前マクスウェルの消滅とともに消えた。分かるだろう」

「…分かりたくありません」


まるで子供も宥めるような物言いだった。
どんな事があっても私達の上に立ち、全てを背負い、導いてくれる陛下を今、困らせているのは私だ。
罪悪感がわくけれどそれよりもぽっかり空いたままの穴の方がそれに勝る。


「だって陛下、ウィンガルは陛下のために全てやってきたんですよ。増霊極なんて危険なものを頭に埋めて、命をすり減らしながら戦って。最後も陛下のために戦って。それなのに遺体も見つからず、日々も何一つ変わらずに。なんか悲しいじゃないですか…」


胸の奥深くに蓄積されてきた醜い物を一気に吐き出す。
陛下の顔が見られなかった。
きっと陛下は怒ってる。
もう子供でもないのに八つ当たりなんかして。
でも謝る踏ん切りもつかなくて、何度目かの重たい沈黙が流れるかに思われた。


「陛下?」


それなのになんでだろう。
私は今、暖かい何かに包まれている。


「陛下?」


暖かい腕で私を抱きしめる陛下は何も言わない。
何度も陛下、と呼びかけると腕の力が強まった。
ちょっとだけ背中が痛い。
それでも突き放せないのは熱い、よく分からないものがこみ上げてくるからだ。


「やだなあ、私、本当に子供みたい」



その時、暖かいものが頬を伝った/110921