いつからこんなに距離が出来てしまったんだろう。
やつれたその人を見て私は腹立たしい思いを抱えていた。
増霊極なんて爆弾を頭の中に植え付けて、陛下のためとは言えやりすぎよ。言えやしない言葉を飲み込み荒く息を吐き出すウィンガルの隣に座り込む。
ウィンガルは私を一瞥しただけで咎めたりはしなかった。


「……」

「………」


お互い何も話さない。
ただ時々ウィンガルの荒い息づかいが聞こえるだけの空間で私は飽きる事なく隣に居座り続けた。
そうして四の鐘が鳴った頃、ようやくウィンガルが口を開いた。それは泣きたくなるほどひどくか細い声だった。


「ナマエ…」

「なあに?」

「仕事は」

「もう終わらせてるよ。陛下からもちゃんと許可もらって来てる」

「そうか…」


うそ。仕事が終わったのは本当だけど陛下からの許可はもらってない。
ウィンガルだって分かってるでしょう?陛下は私をこの研究から遠ざけたいみたいだもの。

私は笑みを浮かべてウィンガルの頭に触れた。
一瞬ピクリと反応を見せたウィンガルだけど振り払おうとはしない。


「顔色悪いよ。寝た方がいいんじゃない?」

「平気だ」

「んーなら言い方を変えようか。見てるこっちが辛いから寝なさい!」


頭に触れていた手にグイッと力を込める。突然の出来事になすすべなくウィンガルは私の膝に倒れた。


「おい…!」

「いいからいいから。可愛い幼なじみが膝かしてあげるって言ってんだから甘えときなさいよ」

「…っ」


プライドが許さないのかしばらくの間もぞもぞと動いていたウィンガルだったが度重なる実験に疲れていたらしい。物の数分で夢の中だ。

綺麗な寝顔を眺めつつ思う。
抱え込んできた言葉を言えるのは今しかない。でも言ってもいいのだろうか…一瞬迷い、私は小さな声で呟く。


「…無理、しないでね」


こうして膝をかす事もきっともうすぐなくなる。
空いた距離は埋める暇もなく広がって行く。
寂しいけれど…仕方ない。

五の鐘が鳴る頃、眠る彼を置いて私は研究所を出た。


暖かさを知るといい/110919