お嬢様は長い黒髪をお持ちで今日は白いドレスワンピースを着ていたはずです!ああ、どうか見つけてくださいませ…!!

狂ったように叫んだ従者の声を聞き入れ捜索に兵を当てたはいいものの一刻経っても探し物は見つからなかった。
もはや従者の顔色は土気色で誰かが支えてなければ倒れてしまうほどだ。


「陛下、いかがされます」


ウィンガルが静かに問った。
彼の声には「このままではいられないだろう」と言う意見が含まれている。
それにはガイアスも同意だ。
城内で死人が出ては困る。
愛刀を取りガイアスは王座から立ち上がる。


「俺が出る」




王が一人で、しかも女の捜索とは如何なものか。
当然渋った自分の片腕の思い出しつつガイアスは城下を歩く。民たちは突然の王の登場に驚き、中にはひれ伏す者までいた。もちろんその中には捜索に当たっていた兵士もおり全員責任を感じているのか表情は浮かない。

陛下!ガイアス王!と口々に叫ぶ民達を片手で制し、ガイアスはある一点に目を止めた。
長い黒髪を持った女が子供を抱きかかえ治癒術を施していたのだ。


「(あの女…)」


女は厚手のコートにズボンとブーツと言う装いで、別になんら不自然な点はない。
しかしガイアスはその女がどうにも引っかかった。

気配を殺しジッと女を観察していると処置を終えたのか子供は笑顔で居住区の方向へ駆けて行った。女もまた子供を見送り背を向ける。向かうはモン高原の方角だ。確信はないが仕方がない。


「待て」


短く引き止めると女はしばらくの沈黙の後振り向いた。
つり目がちな大きな瞳を持った品の良さそうな女だ。


「あまり手間取らせるな」


この言葉に大きな瞳をパチパチと瞬かせ女は諦めたように両手を上げた。
感も中々役に立つ。
確信を得たガイアスは女との距離をつめた。


「レイチェル、クレストアだな」

「…そういうあなたはガイアス王で間違いないみたいね」

「お前の従者が今にも倒れそうだ。俺とともに来てもらうぞ」


あえて否定も肯定もせず続けたガイアスにレイチェルは言葉につまった。
どうやら悪いとは思ったらしい。

これならば抵抗はしないだろう。そう踏んだガイアスはレイチェルに背を向け歩き出した。
どこに向かっているのかは言われずともわかる。
レイチェルは小走りにその背を追いかけた。
後ろからついてきた兵士や何事かと見守る民達の視線があまりにも痛かったのだ。


110921