「はい残念不正解ー」


スコンと竹簡で頭を叩くと「そんなあー」と声を上げ孫権は机に突っ伏した。
正直孫権はそんなに頭の良い少年ではない。けれど努力だけは一人前で、大好きな兄や姉に心配をかけまいと日々努力している事を周瑜は良く知っていた。だからこそこのような事は珍しい。今日の孫権はどこか上の空で、周瑜が出す問題に全て間違え続けている。


「ねぇ周瑜」


筆の頭で机を叩く孫権の表情は暗い。さすがに書を読むのを止め、聞きの姿勢に入れば孫権は目だけをこちらへ向けた。普段純粋でキラキラと輝いている瞳には翳りが見え隠れし、それが白の瞳と重なって見え周瑜は些か辛そうに目を細めた。


「お姉ちゃんが辛そうなんだけど何か心当たりとかない…?」


孫権は人の感情に敏感だ。
特に姉の物となると嫌でも分かってしまうようで、理由も分からずこうして自分自身が辛くなってしまっている。
けれどそれは周瑜も同じだった。突然告白され、縋られ、甘えられ、ついに先ほど最後だと部屋へ呼んでしまった。理由も分からぬままに。

孫権が望む理由を話そうにも自身すら分からぬのだからどうしようもない。
周瑜は竹簡を握り直し、また孫権の頭をスコンと周瑜なりに軽く叩いた。


「ったく、変な事で悩む暇があるんならもっと違う事に頭動かせよ」

「うぅー」

「ハイハイ、唸る暇があるなら本腰入れる。もし次も間違えたら折檻な」

「えぇ!?」


存外子供は単純な物で、よほど折檻が怖いのか提示された問題を穴が開くほど凝視して必死に筆を走らせる。
その姿を見守りながら周瑜は窓の外を眺めた。


「(そろそろ日が沈む)」


約束の夜はもうすぐそこまで来ている。これからとそして明日の事を考えると頭が痛くなった。
そして追い討ちわかけるように孫権は回答を間違い、周瑜は怒りマークを浮かべながらまた、しかし今度は全力で竹簡を振り上げた。


120226