全ての始まりはプレザが土産にと持って来た一冊の精霊術に関する本だった。
見た事も聞いた事もないその本は元々読書好きであったナマエの興味を大いにそそった。夫であるガイアスを巻き込んで術技を試して見た結果、大失敗を収め、叱咤されたのは記憶に新しい。

だがナマエは諦めてはいなかった。見た事も聞いた事もないこの術技をなんとしても物にしたい。ガイアスのいない夕方の空き時間を利用してナマエはあの本を開き、詠唱を開始する。
そして…前回同様、見事なまでに誤爆した。




気がつくとどう言う訳か、ナマエは草原のど真ん中に立っていた。何なんだここは。脳が上手く働かずナマエは思わず泣き言をもらした。


「何なのここ…」

「何だここは…」

「「ん?」」


聞こえた自分以外の声にはっとして振り返れば、そこには自分より数歳年上に見える女性が立っていた。
その凛々しい立ち姿に何故今まで気がつかなかったのだろうと思わず身構えれば女性は白けた視線を投げた。


「君は素手で戦えるのか」

「…無理、ね」

「なら取り敢えず座ろう。ずっと立っていては体力を消耗するだけだ」


女性はシェダルと名乗った。
ナマエ同様、見回りをしている途中、気がつくとここに立っていたらしい。そしてシェダルもまた、ここに見覚えはないようだった。


「…ごめんなさい、もしかしたら私のせいかもしれないわ」

「と言うと?」

「新しい精霊術を試したのだけど…その、誤爆したみたいで…」


ようするにあなたは巻き込まれてしまったのよ。
申し訳なさそうに肩を落とし、ナマエは数回謝罪を繰り返すとポツリと語りだした。


「ダメね。あれだけ叱られたのに自分の欲求に勝てなかったわ」

「叱られたと言うと父君に?」

「いいえ…夫に」

「夫?」


無表情だったシェダルの表情に驚きが浮かぶ。
それもそうだ。自分より年下のナマエがまさか結婚しているとは夢にも思うまい。


「夫がいると言う事は…まさかその歳で子持ちなのか?」

「ま、まさか!子供なんていないわよ!」

「何故だ?夫婦とは子を成すものだろう」

「そ、それだけが夫婦じゃないわ!」


声を荒げるナマエの顔は真っ赤だ。シェダルにその気はなくともからかわれているように思えたナマエは、仕返しとばかりに身を乗り出す。


「そっちこそ恋人とかいないの?」

「恋人?」


恋人、そう言われてもそんな相手などいない。告げるのは簡単だが嬉々としたナマエの様子がそれを妨げる。


「恋人、ではないが…大事だと思える友ならいるよ」

「友?」

「アイツになら背中を預けられると思える友が」


友を思い出しているのだろうか。あまり表情のなかったシェダルの頬が少しだけ緩む。よほどその友が大事なのだ。ナマエは眩しそうに目を細めた。


「あなたにそう言わせるなんてよほど良い友人なのね」

「いや、良い友と言うのは認めるが君が思っているような奴ではないよ」


それからのシェダルは妙に饒舌だった。
どうやらその友は率いる立場でありながらシェダルに甘える節があるらしく、困っているらしい。シェダルとしてはもっと自覚を持って行動して欲しいと言う。だがシェダルは気がついているのだろうか。友の事を語る自分の顔が微笑んでいるのを。


「なら私は逆ね。私はあの人に甘えすぎているもの」

「案外その彼は君に甘えられるのを嬉しいと思っているかもしれないぞ?」


妙に説得力のある言葉だ。
自然と頷きが出てしまう。

次の瞬間、突然の突風が二人の間を駆け抜けた。
反射的に閉じた目を開けば、そこに映った互いの姿に唖然とする。そして悟った。別れの時間が近いと言う事を。


「案外早かったな」

「ええ…でも結構楽しかったわ」

「それは良かった」


目を伏せシェダルは笑う。
段々と見えなくなる視界の中必死にその顔を見つめ、ナマエは最後にと言葉を紡いだ。


「さっき私に言ったのってあなたの気持ちではないの?」

「は…?」

「今度鏡の前で同じ事を話してみて。きっと私が言ってる意味が分かるから」


また突風が吹きナマエの声が聞こえなくなる。
変わりにポンと軽い音がして、目を開くとそこは何時もの廊下だった。帰ってきたのである。
シェダルは落ちていた照明を広いあげ、ふと近くにある鏡へ視線を投げた。
しかしそこには何時もの自分の顔があるだけだ。


「……何だったんだ」


あの不思議な場所も、あの女性も。
不思議がるシェダルの問いに返せる者は誰もいない。




戻ってきた。
見慣れた寝室の中心でナマエは何も言葉を発する事なくパタリと本を閉じた。
そしてそれを棚へ戻すと部屋を出る。

向かうは夫のいる執務室。
響く足音は軽やかだ。


はじめまして/111207


左京さんへ相互記念!
左京さん宅シェダルさんと我が家の夢主の出逢い話との事でしたがこれで良かったですかね(;´・ω・)?
返品は何時でも受け付けておりますので言って下さい。
それでは相互ありがとうございました!
夢主共演楽しかったです^^