「おい、早く寝たらどうだ、アースト」


ソファーに沈み込み、胡散臭そうな本を読んでいるアーストに声をかける。
ちらりとナマエを見ると、そのままアーストは読書を再開した。


「いい加減にしろ!」

「!」


本を引ったくると、アーストの頭を殴ってナマエは片方の眉を吊り上げる。
その怒りの表情に、アーストも流石にヤバいと、冷や汗を流した。


「明朝から重要な会議を行うと言っただろう!」

「す、すまん‥」

「言い出したのは君だぞ、アースト。それに加え、只でさえ、君は朝に弱く、毎朝起きるのが遅いんだ。明日、寝坊をしてみろ。インディグネイションを落とすからな」

「わ、分かった。善処する」

「善処ではなく、そうしろ馬鹿!!」


再度、頭を殴って、ナマエは部屋を出て行く。
防寒をしていたことから、夜の見回り当番なのだろう。
リィンとだったはずだ。


「………寝るか」


殴られた箇所を撫で、大人しくアーストは自室に戻るために立ち上がる。
暖炉の火はそのままの方が良いだろうと、灯りだけを消して部屋を後にした。




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「どこだ、ここは?」


確か、自分はナマエの怒りに触れぬように早起きしようとベッドに潜り込んだのだ。
緑豊かな草原のド真ん中に、立っているはずなど無い。
なのに、何故、草原に居るのだろうか。
アーストは頭を抱える。


「教えてくれ、友よ」


付け加えると、隣に自分そっくりな男が立っているんだ。


「そう身構えるな。お互いに武器も無いし、面白いではないか。自分と語らえるというのは」

「‥お前は、」

「まあ、座れ。俺に思い当たる節がある。まずは、それを話そう」


ガイアス、と名乗った、自分そっくりの男は、どうやら別次元の自分らしい。
ガイアスが言うには、彼の妻が精霊術を誤爆した際の影響で、何らかの空間に引き込まれたのだろう。ということだった。


「つまり、俺は巻き込まれたということか?」

「そうだな」


妙に落ち着いているガイアスを見て、アーストも徐々に落ち着きを取り戻す。
まるで鏡のようだと思いながら、ガイアスを見る。
それから暫く続いた沈黙による気まずさは何時しか消え、お互いに、ガイアスは妻、アーストは友のことを話し合っていた。


「まったく。お前の妻は恐ろしいな」

「まぁ、な」

「だが、良き妻だ。民を思いやれて、お前の気持ちも汲み取れる」

「思い立てば一直線。すぐさま行動に移そうとする猪突猛進型だが、俺は、あれを好ましく思う」

「だろうな。俺もだ」

「‥やらぬぞ?」

「遠慮する」


苦笑いを浮かべ、アーストはナマエを思い出す。
最後に見たのが怒った背中だったからか、それもまた、苦笑いを誘う。


「お前の友も、良き友だな」

「ナマエか?」

「ああ。どれほどの付き合いなのだ?」

「‥そうだな。四年、だろうか。アイツと出会ったのは、決起をしようと決めた頃だった」

「ほう?」

「お前の言うとおり、今では良き友だ。アイツになら、背中を預けられる」


嘘ではない。
唯一、心を許せる友だ。


「恋うているのか?」

「………何?」

「気づいていないのか。友を語る自分の表情に」

「な、」

「とても愛おしそうに話している」


聞いて、顔に熱が集まるのが分かる。
ガイアスの意地悪い顔に一発お見舞いしてやりたいが、自分を殴ってどうすると、何とか自制した。


「そろそろのようだな」


目覚めが、すぐそこまで来ている。
徐々に薄くなっていく互いを見つめ、やはり殴れば良かったとアーストは後悔した。


「せいぜい、妻に逃げられぬようにする事だな」

「そちらは、さっさと素直になることだ」

「よく言う」

「フッ」


ガイアスは、去り際に何かを言ったのだが、よく聞き取れなかった。
だが、口の動きで、何を言おうとしたのかは分かる。
余計な世話だと、アーストは言い捨てた。




「おい、アースト。起きろ」

「………」

「何故、君は廊下などで寝ているんだ。寝るならベッドで寝ろ」

「‥ナマエ」

「冷えきっているぞ、身体は大丈夫か?」


ナマエは、巻いていたストールとマフラーをアーストに巻きつけ、兵を呼んでガイアスの部屋を温めるように指示している。
窓を見れば、はらはらと雪が降っていた。
それを眺めながら、アーストは、別れ際のガイアスの言葉を思い出す。


『大切にする事だ』


余計な世話だ。
ナマエの腕を引き、バランスを崩したナマエは倒れ込む。


「おい、アースト!」

「人肌の方が温まる」

「馬鹿か君は!!!!!」


ストールに巻き込み、ぎゅうぎゅう抱きしめれば馬鹿だの離せだの連呼される。終いには、騒ぎを聞きつけたリィンまで飛んできた。


「さっさと寝ろ!!」


リィンと共に見回りに戻ってしまったナマエの背中を見送り、大人しくベッドに潜り込む。


「自覚くらいはある」


ぽつりと呟かれた言葉は、誰へ向けたものか。

知るのは本人だけ。



一方、精霊術を誤爆した妻に呆れを見せているのは、ガイアスだ。

流石に反省しているのか、レイチェルは正座してうなだれている。


「ごめんなさい‥」

「………次は、気をつけろ」


まぁ、なかなか楽しめたことだと、今回だけは大目に見ることにしたガイアスだった。
今夜も星が綺麗だ。



My,Lady


僕らのお姫様さ


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奏さんに相互記念!
あれ、これ対談?(^ω^)←
リクエスト通りになっていなかったらすみませぬ。
返品は随時受け付けておりますので。
奏さん、相互ありがとうございました!


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左京さんより相互記念!
陛下対談です!
なんかもう色々と萌えてかつ興奮しすぎて頭がパァンしそう/(^o^)\
左京さん本当にありがとうございました!
ツイッター共々これからも宜しくお願いします!


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