復活 | ナノ


そうだそうだ、受け止めようとした人間の条件反射という事にしておけばイケるんじゃね?ただその場合普通なら私は二人の重さと勢いに耐えきれずぺちゃんこになるけど。紙っぺらのようになって後からリ・ボーン!…できないよねー。ねー。

私は両手をサッと下ろし、二人を見据えた。

追加の銃弾を脳天に受けた沢田君、ぼんよよーん!と彼の天辺の髪が急成長し、バネの役割を果たして地面への勢いを相殺した後…といっても速度は大分落ちていたが、彼は野球少年を抱え二人揃って無事に着地できてはいたので一安心はした。

私だって鬼じゃないむしろ微妙に天使混ざり気味…いやその血がなくともそうするさ、つまり目の前の人間が死にかけて無視できる筈もなく。…まあその正義感が今回はメチャメチャ仇になったが、何も疑問を持たれていない事を願おう。
…特に銃撃の位置から判断するに、校舎の真ん中ら辺の高さの階に生息中の狙撃手ならぬ狙撃ベイビーにはな…!

二人とも打ち解けたのだろう。談笑した後、こちらに気付いたようだった。そりゃそうだ。

気まずすぎる私。とりあえず、


「山本君、色々思う事はあるだろうけど命は大切にね。あと、沢田君は風邪引かないようにしなよ」


と言うだけ言って、その場を走り去るので精一杯だった。

何で今日に限って寝坊助化したんだ、私…!
雲雀さんトコ束縛時でさえ一週間起きっぱとかフツーにかましてたのに!

自分の運のなさを本気で呪いかけた出来事だった。因みに足許に呪術特有の魔法陣が浮かび上がる寸前だった。
そして校庭の地面が耐えきれずベキャ!と亀裂が入ったのは、風紀委員云々からしてここだけの秘密だ。


◆◆◆


山本が自殺未遂を図るという大騒動があった今日。
キッカケはアレだけど結果的に山本と更に仲良く(しかも親友レベルに!)なれたから、オレはちょっとウキウキしながら家へと帰宅し、自室へ入った。


「ただいまー。そうだリボーン、今日はありがとな。山本を助けられたし、おかげでもっと仲良くなれたよ!」

「ファミリーだけどな」

「ちげーよ!!まだそんな事言ってんのかよお前!」


ったく、リボーンが来てからマフィアだのボンゴレ10代目だのとロクな事がない。
まあ、今日の事もそうだけど最近皆のオレを見る目が変わってきたのは、こいつのおかげだとは思うけどさ…。


「わかってんじゃねーか。それよりツナ」

「無視かよ!っていうかお前また読心術を…」

「……お前、空中浮遊できるか?」


…リボーンが突拍子もないのも段々わかってはきてたけど、この質問も相当重症だと…って、やべっあんまバカにした風な事思い浮かべただけで今みたいにこいつにはわかっちゃうんだった…!
オレは咄嗟にあたかも普通で一般的だろう返事をした。…バレてそうだけど。


「…はあ?いきなり何だよ、つーかできるわけないだろ!あー…そうだ、大掛かりなマジックショーとかならわからなくもないけどさ。一応タネとか仕掛けありきなんだし」

「まあ、それもそうだがな。だが気付かなかったか?お前達が落ちてすぐ、落下スピードが段々緩やかになっていったんだぞ。万が一って事もあるから死ぬ気弾と、一応つむじにも追加でスプリング弾は撃っておいたんだがな」

「あれってそんな名前なのか!?…いや、じゃなくて。うーん…あの時は焦ってたからなぁ……ん?じゃあ何があったって事だ?」

「簡単だぞツナ。つまり何かが手助けしてくれたって事だ。因みにオレの目には下から突風が吹き上げたように見えた。木の葉とかが一緒に舞い上げられてたしな」

「ハア!?何だよそれ!?」


やっぱこいつ頭おかしーだろ…ってうわ銃口こっち向けんなよオレが悪かったからァ!


「わかればよし」

「(オレの意気地無し…)それにしても…うーん風か…あ、そうだ!自然がたまたま味方してくれた!…とか?」

「……お前って本当バカだな」

「悪かったな!どうせオレはダメツナだよ!…じゃあリボーンにはわかるっていうのかよ?」

「証拠がある訳じゃないけどな。――お前達の落下地点のすぐそばで怪しいポーズをしてた奴を見たんだ」

「落下地点…?って、え…まさか苗字さん!?つーか怪しいって…」

「オレもしっかり見た訳じゃねえが、奴が両手を上に向けた瞬間風が発生したようにしか思えなくてな。しかも、“あの”風は意思のあるようなモノにしか見えなかった」

「はあ!?んなバカげた事言って!いくら何でもそりゃないだろ!至って彼女は普通の…まあ異様に逃げ足が速かった気がするけど、それだけだって」


――苗字さんと言えば。
今日もそうだったけど少し前、獄寺君のダイナマイト攻撃の時なんてまさに目にも留まらぬって感じで目の前を駆け抜けてったんだよな。
今回とは関係ないけど、そういや何故かあの時髪がボンバってたっけ。…まさかとは思うけど、爆撃に巻き込まれた訳じゃ…ないよな?うわ今頃になって心配に、


「ああ、確かに奴はその辺の男じゃ勝てないくらい運動神経が良いぞ。噂によると、ハンドボール投げはグラウンドじゃ計測不可能で結局60mに落としたって感じらしいしな。ついでに言うと握力は両方とも80キロ、シャトルランが300近くだ。その他は走り幅跳びが5m、1kmマラソンは約2分らしいな。そして、肝心の逃げ足の速さを裏付ける50m走は、約6秒」

「スゲー!!?つーか何でそんな情報知ってんだよ!?」

「調べたからな」

「何やってんだよ!!」


内心冷や汗を流す間もなくリボーンが語った内容に、オレはかなり驚かされた。前半は勿論、後半なんか特に。…苗字さんのプライバシーは一体どこに…。

確かに無事着地した後、遅刻して来たのか苗字さんは近くにいたけどさ(彼女が遅刻なんて珍しいと思った)。
一連の流れを見ていたんだろう、それにしては若干淡白な言葉をかけられたけど、根掘り葉堀り(だっけ?オレ国語どころかどの教科もダメダメだからな…)訊かれても困るから助かったといえば助かったのも事実。
…っていうか、オレのあの格好を見て動じない苗字さんって一体…。

それにしても彼女がそんな怪物じみた…いやこれは女の子に対して失礼か。そこまで凄い身体能力を持っていたなんて。
…そういえばオレの憧れ、あの京子ちゃんも「名前ちゃんって運動神経凄いんだね!」って声をかけてたような気が…(オレも運動が出来ればな…)。

いやいや、だからって風を巻き起こすとかどんなだよ!RPGか!


「という訳でツナ、苗字名前を連れてこい」

「何がどーしてそうなるんだよ!?大体苗字さんと話したのなんて数える程しかないのに(むしろオレと話す時何故かいつも微妙なカオされるのに!)どうやって部屋に連れてくればいいってんだよ!」

「別にここじゃなくても構わねえ、オレの所に連れてこいって言ってるだけだ」

「無理に決まってるだろ!…っていうか、そこまで言うなら自分から会いに行けばいいじゃんか」

「それができないから言ってるんだ」

「………は?」

「あの苗字って奴、相当鋭いぞ。オレの尾行に気付いた途端、視界にすら入らない程オレを避け始めたくらいだからな」

「何やっちゃってんですかアンタ!?」


ちょ、それ下手したら犯罪だぞ!…いや、今更こいつにそんな常識通じるワケがないのか。
まあ一応見た目は赤ん坊だから大丈夫…か?


「失礼だな。見張ってるだけだぞ」

「あんま変わんないし!ってまたオレの考えを…!」


やっぱ駄目だろ!


「とにかくだ。苗字名前を見極める必要がある。何たってオレの追跡を撒く程の奴だからな。経歴はついこの前3ヶ月間行方不明だった事以外はごく普通だが…どこかの刺客っつー可能性もある。何とかして連れてこいよ」

「どこまで調べたんだよ!つーかムチャクチャな!」

「そしてフリーだと証明されたらファミリーに入れるからな」

「結局それかよ!」


っていうか苗字さんは女の子なんだぞ!?そりゃ運動神経は凄いのかも知れないけど、普通の一女子にしか見えないし…。…やたら項垂れてる事が多い気もするけど。しかも…京子ちゃんと話した後とかなんて特に。
まあ何て言うか、京子ちゃんを目で追ってる内に苗字さんもよく視界に入ってたから何か記憶に残っちゃったんだよな。京子ちゃんと話せるってだけでオレなら舞い上がっちゃうってのに、一体苗字さんは何に対してそんなこの世の終わりみたいなオーラを醸し出すのやら。最近のオレの中でもトップを占める謎の一つでもある。…女の子って複雑なんだな…違うか。

だけどさ、苗字さんもそうだけどそもそも男にしたって、獄寺君は別としても山本はクラスメイトなんだからそれだって本当は断固反対なのに!

はあ…どーしたもんかな。つーかよく考えたら苗字さんの事、印象に残るくらいの頻度で京子ちゃんも気にかけてるんだよな。オレはよく知らないけど確かに彼女はリボーンの言うように3ヶ月間行方不明だったらしいし、はたまた両膝に包帯を巻いてるなんて事もあったから京子ちゃんもそうしてとにかく心配してるからこそよく声かけてるんだと思うんだけど…でもその割には、彼女からの昼飯の誘いとか結構断ってるみたいだった。…何てもったいない!

…それでも、苗字さんってたまにだけど学校でオレへ用事がある時とか直接一言伝えれば済むような内容でもわざわざ京子ちゃんに伝言頼むのか、彼女がオレのトコに来るよう仕向けてくれるんだよな…!他意はないんだろうけど、オレの内心はもちろんその都度小躍りどころかタップダンスやサンバ状態だった。
そしていつだったかその言伝て場面を目撃した事があってオレはこれももちろんと言うか、苗字さんに感謝の意を込めて彼女をじっと見つめた事もあった。…だけど、気付いた彼女は普段からけして活き活きした顔付きって訳でもないけどそれがドスンと一気に死んだ目になっていた。…オレ、そんなにキモい視線送ってたかな…。
(あーでも、やたらヒャッホー!な感じ(?)の時もあったような…何かいかにも悶えてます!みたいな…?…謎だ。項垂れ具合とのギャップがありすぎて)。

でも、それらを統合して見るにつまり、

“苗字さんを巻き込む→いつか京子ちゃんにも飛び火して迷惑がかかる、まる。”

って事じゃあ…!
ひいいちょ、ちょっとタンマリボーン早まる(?)なアァ!!


「早めに声かけろよ」

「絶対ムリィィ!」




オレの悩み事に、また新たな項目が追加された瞬間だった。


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