私はあえて一ヶ所だけ防御術を緩め、そこに塊を掠らせた。効果を知りたかったからだ。それによって今後の立ち回りが大幅に変わってくると思って。 何故なら、一発でもくらったら即ゲームオーバーなのと、全部弾き返せるのとでは違いすぎるからだ。 予想は大丈夫だったらしい。果たして、防御術を強固に纏っている部分はペシンペシンとばかりに悉く弾いていて特に問題はないようだった。命をかけて得た術なだけはある。 「いてて…」 そして緩めた箇所――腕は多少効果を落としたにも拘わらず、一瞬だけ症状が出たものの、それはすぐに消えていった。流石に掠り傷は負ったが。すぐ治ったけども。流石人外。こういう時は吸血鬼の血万歳。 「へえ…お前、何モンだ?」 「他のヤツらはこれくらっただけでカンタンに死んじまうのになあ?」 おしゃべりしちゃう二人がニタリと口端を上げてこちらを見てくる。元々つり上がってるのがデフォルトみたいな顔面だったから余計凶悪になった。昔の私ならこの時点で涙目になってるに違いない。 『いてて、いててて』 「とか言って無傷じゃねーかよ!」 「チッ、よけんな!」 そしてその間もやむ事のない取り巻きからすると塊の数撃ちゃ当たる作戦&おしゃべり(略)の攻撃。いやいやよけなきゃ多分私の胴体真っ二つだからね。頑張るけども。仮に当たっても。防御術。アンド治癒術。 そんなコトを思いながら、適当にかわしつつ弾丸当たっても弾きつつ、ちょっと考える。 成分は悪者と判断したその血らへんが勝手に処理したようだ。そしてその後もこれといって何かが起こるわけでもない。良かった、相性は良いらしい。…ちょっとホッとした。 でもああ、理由、何かわかる気がする。 例えばゾンビなどのアンデッド系のモンスターに聖水が覿面に効くのと同じようなものなんだろう。 だから私如きでも、何とかなる。何故なら半分入っている混血児。悪魔だけじゃなくて、天使の血が入った。 さっきの予想。これが対処してくれると私は思っていた。 あと元々私は妖怪モドキであり、悪いモノの方がなじみやすかったというのは既に悪魔で経験済みだ。よって今回のも、似たような物質扱いで無害なモノとして取り込んでしまえる、といったところなのかもしれなかった。 そういえば、対毒訓練とかもした事があるけれども、そこらへんも少しは効果があるのだろうか?わからん。 天の使いと書いて天使。悪魔――そろそろシラは切れなくなりそうなワケだけど。でもとりあえず、そういうのは殊更に相性は悪いだろう。 プラスの最たる位置にいる天使。たとえ本物の悪魔でなくとも、マイナスの極みであるそれらの生き物に何の影響も及ぼさないとは考えにくい。 しかしそれはそれとして。 「さっきの私……バカすぎる」 そう、そうやってよくよく考えてみると、さっき攻撃をわざとくらった私って……。うん、ナメてたわ。たまたま結果的に天使の血が相殺してくれたから良かったようなものの、もしも打ち勝てていなかったら……。 逆に、天使だからこそ悪いモノにやられてた可能性だってあっただろう。私が今言った仮説を真逆にすればいいのだから。 今回は大丈夫だったってだけでもっと攻撃力の高いのが出てきたらどうなるかわからんし。ホント、天使な清い部分(自分のコトだから言ってて吐きそう)にぐさりと突き刺さるコトもあるかもだし。…全力で回避しよう。 まあゾンビが聖水ぶっかけられて平気なんて話聞いた事ないけども――。 まあ、何にもなってないからそれはいいとして。 (そしてどうでもいいが今日一日で一体何回ゾンビに思いを馳せねばならんのか…)。 とりあえず、防御がイケるのはわかった。それならばと、私は利き手に力を込める。 さっき悩みかけていたのの続きだ。 腕全体に魔力を纏わせる。間違っても悪魔が使うような闇系のではない。そんな凡ミスをしようものなら下手すりゃ敵に塩を送るコトになってしまう。いやまだ敵のHP1ミリも減ってないけども。 私が使うのは、光系。 それも天使が使うよーなの上乗せ。天使って前述の通り殺生しないから当然争いも好まないわけだけど、でも、戦えないとは今まで一言も言っていない。多分。 というコトで、そろそろ何とかしたいと思います。 「おいおい、お前偉く頑丈だなあ」 「つか、空飛ぶとかもありえねえだろ。ホントに人間か?それとも…」 違います。ちょっと(だいぶ)人外ってるだけです。 そしてその後の単語はちょっと聞きたくないです。聞いたらもう逃げられない気がするので。この世界の答え的な意味で。だいぶ無理げだけども。 私は二人に近づいた。反応してなかったから多分見えてなかったんだろう。 そのまま、あるのかわからないけど心臓の辺りをそれぞれ突く。 魔力といえど属性は光。そのおかげか貫通する。 腕を引き抜くと血(あるのかわから…)が溢れる間もなく、跡形もなく二人は消滅した。 「やっぱりエクソシストか…!」という断末魔を上げて。 ……ちょ、答え……。 そして私はただの通行人です。しいて言うならちょっと人間やめてるだけです。 あと一応言っとくとそう呼ばれる由縁で私に合うのなんてないと思う。いかんせんガワ半分邪悪だし。いや9割か。 より強いであろう彼らに通じたのなら、と残党には純粋に光系魔術を向け(だって突き指しそう)さくさく殲滅しつつも、私は心の中でガクリとなっていた。 ――ああやっぱり、ここDグレの世界なんですね、と……。 とりあえず、私も私で滅されないようにしたいと思います。 何故ならガワ半分悪魔。なんか効きそうじゃん。 そして言われて気づいたんだけども、そういえば周りにそういった、即ちプロの人達が一人もいない。勿論新しく来たりもしていない。来たらいくら何でも気づく。戦闘中はいつも以上に神経は尖るものだ、気配に気づかないわけがない。まして体力尽きない限り感知モードなのだからそれ以前に波動でわかる。 ていうかプロもだけど何だっけ、確か先に怪しい土地に来て下調べする人達とかいなかったっけ…? 辺りを見回すと白い服を来た人達が何人か倒れていた。住民の時もそうだったし、また言うようだが気配を一つも感じなかったから予想はしていたが……。 あとで供養すべきだろうか…いや、確か遺体は回収されてたような…?なら余計な手出しは無用か。 とりあえず手だけは合わせておいた。 しかし勢いで結果的に一網打尽になっちゃったワケだけど、中身は一体どうなったんだろうか。確か入ってるんだよね?魂的なの。いやま、見てしまったというか視えてしまったから確かも何もないんだけど。 まさか、聖水的な光属性だからと完膚なきまでに滅されるのだろうか…。だとしたら……ごめん。 もし一応違って辺りをさ迷う浮遊霊とかむしろ地縛霊とかにでもなりそうなら私が神に「来世は幸せにしてやってくれ」とかいいように言っておくから勘弁してくれ。 その前にこの世界で私がちゃんとやっていけるのかが問題だが。 ちゃんとしないと神んとこ行く前にお陀仏の可能性大。むしろ真実神のとこ行くつまり、下手すりゃ召される。 この世界も全体的にも局地的にも危ない事はわかってるし何よりさっきの懸念。攻撃されちゃおしまいな気がする。 え、全体的?局地的?…ああそうだとも。もうしらばっくれるのは良そう!前者はアクマ、後者はイノセンスの事だ。(因みに後ろのはさっき言ってた由縁の事な)。 前者はどこにでもいるんだろうし後者はなんかもうイノセンスあるとこ危険アリなんだろそうなんだろ。 …やべえな後者どこにあるとかほぼ忘却の彼方だわ。そもそも一つの国に限った話ではなかったよーな…。 …私から近寄るコトはありえないのでそれはさておき、白い人達といえばさっきおしゃ(略)もていうか私も言ってたけど、この方々とは真逆なカラーリングの人達は来ないんだろか……。 「おーい!」と内心叫ぶも即座に「いややっぱ来なくていい!」と思い直す。 会いたくない。見られるコトすらしたくない。切実に。なぜって何で浄化してんのとか何で攻撃効いてんのとか説明めんどくさい。幻術やら忍術やらでいちいち誤魔化すのも疲れる。 そしていつかやらかすんだーアハアハ。よりによって気ィ抜いてる時に非忍術部分を目撃されたりだとか大怪我して非忍術以下略だとかで絶対いつかボロが出るんだーエヘエヘ。私ハッキリ言ってあんま要領よくないからね。頭は言わずもがな。つまり言い訳も期待出来ない。 何度も言うようだが私が塵と化す可能性もあるし。 それに今までの経験上きっと巻き込まれる。 今度こそ私は平和に(気持ち)おばあちゃんになるのだから! 望むものは平穏平和。今までも、これからも。普通の学生ですら巻き込まれる。ファンダシーに飛ばされると更に悲惨。生死に直接関係なかったとしても缶詰め缶詰めお外に出てもおつかい(任務)なエンドレス労働基準法違反プラス命の危機。(しかも室内は室内で過労死の危機)。 今まで全部そんな感じ。痛いつらいしんどい。出来れば働きたくないでござる。 さっそく痛…くは大してなくて済んだけど、危うく蜂の巣か私真っ二つの危機という困難にぶち当たりかけたのは棚に上げておく。 大体そうした今までも大概だもうこれ以上騒がしいところに連れてかれようものなら年寄りは貧血になるね。だいたいなってるけども。 決意も新たに、私は私によって荒地通り越して更地になりかけているこの地を後にした。 …偏に調子に乗りすぎたせいである。 |