「えっとね、多分それ私の姉弟だと思う。私じゃないよー」 「…そ、うなのか?ずいぶんにてるんだな…」 「うん。一卵性だからね、よく間違われる」 「いち…?」 あっこの歳の子には難しかったか。 「えっと…まあとにかくすっごくそっくりって事よ。ああでもホラ、声は違うでしょう?あ、もしかして会話はしてなかったりする?」 「いや…けっこうはなした。…そうだな、いわれてみればぜんぜんちがう」 「でしょ?……で、まさかとは思うけど……そのほっぺた。私の姉弟が?」 「…なんか、さっきまでいっしょにあそんでたのに、そいつがでんしゃのもけいをとりにいえにかえったあと、もどってきたとおもったらおれのことむししてすどおりしようとしたから、うでをつかんだら…」 「ひっぱたかれたと」 ビンタか……まりあか?のえるなら気に入らなきゃ殴りかかっていきそうだもんな。でも電車の模型って辺りのえるな気もするけど。 そういえばと、先程通りすぎた砂場を振り返ると幾つかトンネルが作られているのが見えた。きっとそれらに通して遊ぶつもりだったのだろう。 「うーん、家で機嫌悪くなる事でもあったのかねえ……でもそれは私の姉弟が悪かったね、本当にごめんね。後で私の方からよーく叱っておくから」 まりあかのえるかはわからないけどどうもこっち側に百パー非がありそうだ。眉尻を下げつつ詫びると「いや、おまえがわるいわけじゃ…」とちょっと照れたように美少年はもごもごして……お持ち帰りしたいとか思ったのも超ごめん。 …しっかし叱るにしてもどっちだマジで。もちっとどんな様子だったか訊いてみようヒントが隠されてるかもしれないし。 「ところでさ、その子…女の子だった?それとも男の…」 「あっ!」 男の子だった?と肝心を言い切る前に突然声を上げた美少年の視線を辿り何事かと振り返ると、視線の先である私の背後にどうやらお母さんらしき女性の姿。公園の入り口から「りゅーじー!帰るわよー!」と間延びした声で呼ばわっている。 因みにこの子が生まれるのも納得の美人だった。 「ごめん、かあさんがよんでるから。それじゃ…」 「あ、うん。じゃあね、重ねて言うようだけど今日はごめんね」 「…もういいって。あんまきにすんなよ」と言ってくれた後お母さんの許へと駆けていった美少年の背にとりあえず一言。 「りゅーじ君、ねえ…」 確かいたよねそんな子。 おっとだからさっき見覚えがある気がしたの……いやいや他人の空似というコトにしておこう、うん。 そんでもってまず聞かない程に珍しい名前ってワケでもなかったのだ名前も他名(ためい)の空似というコトに以下同文。 とりあえず、今言いたいコトはこれしかない。 ……公園なんか来るんじゃなかった……。 そしてこの後の私だが、家に帰ってみると既に揃っていた我が半身ならぬ三分の二身を前にいざ咎めんとして、ガックリと項垂れた。 「どっちか訊きそびれたままだった」 ◆◆◆ かあさんのようじでよっただけのこーえんだったから、あのふたご(というきょうだいのしゅるいは、まちがえてしまうくらいそっくりならそうだろうとあとでかあさんにおそわった)にもういちどあうどころか、にどといくことはなかった。 それになにより、このあとのおれといえば、きょうのできごとのせいでおんなはにがてだとおもうようにもなってしまった。 …まあ、にかいめにあったやつはあとからかんがえてみたらべつにふつーにいいやつというか、そんなにおんなみたいにわけわかんねーってかんじでもないきがしたんだけど。 おなじくらいなとしのはずなのに、なんとゆーか…やたらまわりのやつよりはなしかたとかはなすないようがしっかりしてたから。まるでかあさんやとうさんがおれにはなしかけるみたいな…。 とりあえずおれはあのあとからあったほうとわかれたあと、そいつがいいかけてたしつもんにこたえをだしてから、かあさんにてをひかれておれにとってさいしょでさいごのこーえんを、あとにしたのだった。 「…どっちもなにも、どうみたっておれをぶったあいつのねーちゃんだかいもーとは、みつあみだったしおんなのこだろ」 ◆◆◆ 一応私はまりあとのえるに子細を聞き事の真相――のえるは美少年と仲良く遊んでたらしいが模型を取りに家に一旦帰ったはいいもののおやつのケーキ(ああ、あれか…そういや私も食べたな)で彼の事など忘却の彼方、しかもその後たまたま公園を通りかかったまりあをのえると美少年が間違えるのも道理な訳でしかし彼女に止まる理由などないのだから美少年からしてみれば何故に無視?となる訳で。しまいにゃ引き止めようとした美少年に腕を捕まれたまりあはそん時着てたお気に入りの服(私達三人お揃いの…せめて服が違っていればね…)、実はよく見ればその服の正面にはまりあのM、のえるのN(因みに私のも私の名のイニシャルが入っている)がプリントされてたんだがまー顔も同じな事だし別人とは思わんだろうそれはさておき、それを汚された(砂場で遊んでた美少年の手が砂まみれなのは当たり前である)からキレたっていう…何だこの行きは良い良い帰りは恐い状態…。――を知ったのだが、あの子にも誤解という名の真実を伝えたげようと公園を暫くの間張ってみたものの、彼が再び公園に訪れる事はなかった。 そして1ヶ月程して諦めた私はあの美少年に一抹の不安を感じていたのは事実だったため、結局5歳児にして本格的に両足を突っ込んだ。何にってヒッキーに。 まあ幼稚園だけは朝送ってくれる母に引きずられるようにして放り込まれてたんだけどな。 暫くしたら両親には名前はこんな子なんだと理解は得られたからまだ良いんだけど、いつの間にか近所で恐れられるレベルになってたとかいうイタズラ猛者約二人にイタズラ要員(私的には道連れ)として、自室からまたも引きずり出されるんだけどな。 因みに間もなくご近所さんどころかそう頻繁に会うでもない親戚達からも満場一致で賜った称号は「天使のような顔をした悪魔のような三つ子」だった。ヤベーよ顔はともかく比喩じゃない私ただの評判でも冷や汗もんなんだけど。 そんなまじもんの天使のような悪魔のような私だが、これから暫く、少なくとも幼児(むしろ幼児ょ)を卒業するまで頬を引き攣らせながら今日も元気に、…じゃなくて、毎日元気なまりあとのえるに引きずられてゆくのだった。 リアルドナドナに「毎日外に遊びに行くなんてついに名前も外での遊びに目覚めたのねお母さん嬉しいわやっぱり子供はこうでなくちゃね!」とお母さんの謎の前向きっつか節穴フィルターによるマシンガンかまされ更にぐったりしたのは記憶に新しい。 体重はもう調整済みなため両隣のまりあとのえるが中央の私に逆に引きずられというか巻き込まれ雪雪崩ならぬ人間雪崩よろしく三人揃って崩れ落ちるのも、もはや日課になりつつあるワケである。 とりあえず、こうやって友情(私は正確には横槍もいいとこ家族なため、姉弟愛ではなくこう定義しておく)を築こうとも、これから先中学校に上がってもなおまりあ…はともかくのえるに引きずられるなんてコトのないように、好感度は上限に達する事なかれ作戦で行きたいと思う。 (まんまとかもう手遅れじゃね?なんてのは聞こえん、聞こえんぞ)。 特に、転校なんて形にだけはならんようにな。 |