● 愛される男 A

生王が座っていた前にあるテーブルに何も置かれていない事に気付くと彩子は一声掛けた後キッチンに向かおうとした。


「今、紅茶淹れますね。」

「いやいやお構いなく、今ミロクが何か買いに行ってるから。」


にこにこ笑いながら生王が言うものだからどうしたものかと少し悩んだがある質問をした。


「先生、いつ頃出掛けました?」

「?
10分位前だけど。」

「じゃあ多分暫く先生帰って来ないと思います。」


えっ!!、と大袈裟に驚く生王を少しだけ可笑しく思いながら彩子は続ける。


「自販機ならこのビル内にありますから、10分も掛からないと思います。」

「そういえば一階にあった様な…。」


ふて腐れてる生王に笑顔で彩子はもう一度言う。


「紅茶淹れますね。」

「…お願いします。」


生王は今度は深く頭を下げた。




彩子に淹れてもらった紅茶を早速美味しそうに飲んでいる生王に尋ねる。


「今日はどういったご用なんですか?」

「あぁ、ミロクに呼ばれたんだよ。
今度同期の奴と連絡取りたいからってさ。
でもそいつの連絡先も顔も思い出せないから卒アルとスナップ写真持って来てくれって頼まれてね。」


紅茶と一緒に貰ったマフィンをこれまた美味しそうに食べている生王の脇を見るとそれらしい物が何冊か置いてある。

それを見て自然に興味が沸いた彩子は生王に聞く。


「見ても、いいですか?」

「え?いいよ、もちろん。
じゃあ、僕も久し振りに見てみたいから一緒に見ようか。」


そう言った後生王は、持っていたマフィンを食べ切ると手を払って、横に置いていた卒業アルバムとスナップ写真の入ったアルバムを持って彩子の隣に座った。


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