● 777hitM ◇ Writer:norika

「正生さん………。」


力無い薔子の声に生王はハッとする。

“確かにそこに居る”彼女の傍らに生王は座り、冷たい手をそっと握り締めると悲しい眼差しにぶつかった。

その大きな瞳を見た生王は心が酷く痛んで泣きたくなる様な思いに駈られた。

それと同時に伊綱達の態度に流石に憤りを感じて居た。

生王は薔子に向かって真剣に語りかける。


「薔子さん…。」
「伊綱ですよ。」


間髪入れずに返事をして来た伊綱に生王はがっくりと再び肩を下ろした。

だが、伊綱や矢口は『生王さん真剣な顔してたのに名前間違えたー』とか『真剣な顔でも変』等、本人の目の前で実に失礼な言葉をさらさらと並べ立てる。

明らかに生王は薔子に声を掛けたのに、何故薔子の隣に居る伊綱が返事をしたのかは生王には分からなかったが気を取り直して薔子に話し掛ける。


「彼女達の事は気にしなくていいからね。」


にこりと努めて明るい笑顔で生王は薔子にそう述べたが、彼女は不安そうな顔のまま生王の手を強く握り返した。

そして小声で喋り出す。


「正生さん、その…」
「生王さん、どなたに言ったか知らないですけど失礼ですよ。」


薔子の小さな声は、伊綱のはっきりとした声に掻き消されてしまった。

そしてそのまま矢口も喋り出す。


「そうそ、本人を目の前にして失礼よね!」


どっちがだよ?!、と心の中でツッコミ入れた生王だったが伊綱が鋭い目で射ると。


「今『どっちがだよ』って生意気な事思いましたね?」

「あら、そんな事思ったの?!
あぁーっそれより、いい加減冷房切ってよ!
寒い、寒過ぎるわょ!」


最後の矢口の言葉に生王はムッとする。

冷房は入れていないからだ。

その事に関連して薔子の存在を無視する様な彼女達の今までに無い失礼な態度に対しても再び憤りを思い出すと生王は声を荒げる。


「いい加減にしろよ!!
冷房なんて入れてないし、彼女を無視する様な失礼な態度…いくら何でも許せないよ!」


珍しく怒りを顕わにした生王を見て矢口は驚き口を噤む。

伊綱はジッと、彩子は哀しそうに生王を見詰めた。



ワンテンポ置いて弥勒院が生王に声を掛ける。



「いい加減にするのはお前だよ。」


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