● 777hitJ ◇ Writer:すし猫
「ちょ、ちょっと、弥勒」
「何だ?」
「さっきから、“幽霊屋敷”って連発してるけど…失礼だよ…」
と、気遣うように薔子を見る。
いくら古い屋敷に住んでいるからと言って、自分が生まれ育った家を“幽霊屋敷”などと言われて、いい気持ちはしないだろう。
「あの家は、ここにいる、薔子さんの家なんだから」
「……」
「彼女は長年海外で暮らしてたから、たまたま空き家になっていたせいで変な噂が立ったんだろうけど」
「そもそも、何であの家が“幽霊屋敷”って噂されるようになったか知ってるか?」
生王のフォローを全く無視して、弥勒院は話を続けた。
「ちゃんと目撃者がいるんだよ」
「目撃者…?」
「誰も住んでいないはずのあの家で、“物凄い美人に会った”って…な」
「そ、それは…」
「まあ、最後まで聞けよ」
「……」
「面白い事に、その目撃者には、共通点があるんだよ」
と弥勒院は、何やら意味ありげに笑った。
相変わらず存在を無視されたままの薔子は、プライドが傷付いたのか、素知らぬ顔で紅茶を飲んだ。
「目撃者は、3人。
20代半ばの小柄で大人しそうな男性…。しかも、全員の名前が『マサオ』なんだ」
「それって――」
「どうやら、その“美人の幽霊”は、『マサオ』って名前の大人しい男が好みらしいぜ」
「えっ?」
と、思わず薔子の顔を見つめる。
―――い、いや、弥勒の事だから、また適当な作り話をしてるのかも。
―――だいたい『マサオ』なんて、よくある名前だし。
「それからな」
「まだ、何かある訳?」
「あの家だけど、もう20年以上前から空き家だぜ?」
「だから、それは、薔子さんが海外で生活していたから――」
「確かに、あの屋敷には『薔子』という名前の若い女性が住んでいた。
ただし、その女性は、既に亡くなっているけどな」