● 777hitI ◇ Writer:norika

へらへらと弥勒院を見て笑う生王は、彼を知る者なら誰が見ても何時もの彼らしくないのは一目瞭然だった。

以前会った時と同様に相変わらず焦点は合ってなく、一応こちらを見ているとは言え生王が弥勒院を“友人の弥勒院”として認識しているかどうか定かでは無い程に今の生王は可笑しかった。

弥勒院は生王の事を訝し気に見ていると、生王の談笑相手らしい人物と目が合った。

彼女は今にも折れそうな細い両腕を生王の腕に絡ませ、顔立ちは目が眩みそうな程に美しかった。

しかしその美し過ぎる顔立ちには似合わない目で弥勒院を見詰めて…いや、



―――――睨んで居た。


「ごめん、弥勒。今取り込み中…」

「生王。」


口を開いた生王を遮って弥勒院がはっきりと名前を呼ぶ。

生王は思わず黙って彼を見ると―――今度は先程より幾分かまともに―――弥勒院は見た事も無い位真面目な顔で言った。



「生王…










ライター返せよ。」


あまりに唐突なこの言葉に生王は暫くぽかんと口を開けたまま呆然としていたが、催促する様に弥勒院が生王の前にひらひらと手を出した。

生王はそれからまた暫く経った後ようやく自分があの館に行った訳が彼にある事を思い出し、あぁ!と一言呟いてから慌てて引き出しに仕舞っておいたライターを取り出すと弥勒院に手渡した。

それをしっかり受け取ると弥勒院は呟く様に言った。


「一週間も経ったから延滞金取らねぇとな。」

「ならあそこまで行った旅費払ってからにしてくれ。」


弥勒院の冗談に“何時も通りに”生王は疲れた感じで言い返した。

弥勒院はニヤリと笑うと話を続ける。


「その件だが、その『幽霊屋敷』の記事どうなったかも気になるだろ?
あそこを取材してからまた直ぐに別件で東北に行く事になったしな。」

「いや、その話今度でいいや。」


弥勒院が言葉を区切った一瞬を見極め口を挟んだ生王だったが、そんな言葉に引く弥勒院では無い事は誰もが承知の性。

直ぐさま弥勒院はこう切り返した。


「まぁ、聞けよ。
その幽霊屋敷の記事をさ、東北の方の取材が終わってから複数の雑誌社に売り込んだらやたらと評判良くてな。
かなり良い値で取引したいって会社が二社名乗り出てだな、何とそこで競売状態になったんだよ。」

「いや、あの弥勒…」

「まぁ聞けって。」


相変わらず生王の声は遮られ、弥勒院はそのまま話を続ける。


「それで最終的にかなり値段が競り上がったのは良かったんだが、あまりに良い記事過ぎてその記事を既に校了間際の今月号に載せたいと言って来たんだ。
しかも、ページ数を増やすからってもっと記事書いてくれって言われてだなぁ。」

「なぁ!ちょっと、ちょっとでいいから話聞いてよ弥勒!!」


生王は両手を弥勒院の前に出し、オーバーに静止する様に促す手振りする。

あんまり大きな声で生王が言う物だから弥勒院は仕方なく口を閉じる。


「その話、今度じゃダメかな?」


弱々しく言った生王に対し、弥勒院は心外だとばかりに表情を歪めて生王に言い返す。


「生王、自分の言った言葉には責任持て。」

「?
僕の言葉??
僕はさっきから…」

「一週間前俺が『じゃあ、後でたっぷりと、その“幽霊屋敷”の話を聞かせてやるよ』って言ったら『楽しみにしてるよ』ってお前言っただろ。
ちゃんと読めよ!!


どんな記憶力してんだよ!!
と内心叫びながら泣きたい気持ちで生王は一週間前、適当に相槌を打った自分を呪った。



そんなやり取りをずーっと長い間、自分の存在は無いかの様に繰り広げられた薔子は呆然としていた。


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