● 777hitH ◇ Writer:すし猫
電話を切った弥勒院は、何やら思案していたが、上着のポケットに財布と携帯を突っ込んだ。
「お出掛けですか?」
「ああ…。遅くなるかもしれないから、彩子ちゃんも時間になったら帰っていいよ」
「わかりました」
「じゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい」
バタンと閉まったドアを見つめながら、彩子は何となく嫌な予感がしていた。
―――電話の内容からすると、生王さんに何かあったみたいだけど。
―――大丈夫かしら?
先生と生王さんが関わると、いつも何かが起こるし。
*******
彩子の心配をよそに、弥勒院は生王のアパートに来ていた。
―――ピンポーン♪
呼鈴を押してしばらく待っても、返事がない。
留守か?と思い、ドアに耳を近付けてみると、微かに生王の声が聞こえる。
―――ドンドンドン!
ドアを叩いて、声を掛ける。
「おい、生王!居るんだろう!」
些か柄が悪いが、仕方あるまい。
「俺だ、弥勒院だ!」
それでも返事がないので、ドアノブを廻してみると、鍵は掛かっていないようだった。
あまり大声を出すと、不審人物に間違われ兼ねないので、弥勒院は中へ入る事にした。
「勝手に上がるぞ」
昼間だというのに、何故か部屋の中は薄暗く、妙に空気が淀んでいるような気がした。
そう、まるで梅雨時のような。
狭いキッチンを通り抜け、リビングのドアを開けると、ソファーに座って誰かと談笑している生王の後ろ姿が目についた。
「何だよ、やっぱり居るんじゃないか。
――おい、生王!」
「え?あ、ミロク…?」
「居るなら返事くらい――」
と言い掛けて、思わず固まる。
振り向いた生王の顔色はあまりにも青白く、目の下にはクマが出来ていた。
「ごめんごめん、つい、話に夢中になってて…」