● 777hitD ◇ Writer:すし猫

「随分と…立派なお屋敷ですね…」


「ただ広いばかりで、あまり手入れが行き届かなくて」


「これだけ広いと、探すのが大変そうだなぁ…」


考えてみたら、屋敷のどこに忘れ物をしたのか聞いていない。


万事が適当でマイペースな弥勒院の事だし、本当にここに忘れたのかだって怪しいものだ。



「こちらへどうぞ」

と、女性は廊下の左側のドアを開けた。


生王も慌てて後に続く。



どうやらその部屋は客間のようで、アンティークショップにでも売っていそうな応接セットが置かれていた。



何よりも目を引くのは、煉瓦造りの暖炉と、壁に飾られた大きな肖像画だった。




「……」



「――お忘れ物というは、これですか?」


絵に見とれている生王に、女性は銀色のライターを差し出す。


「今朝、庭で拾いました」



「そうです、これです」


慌ててそれを受け取ろうとして、女性の掌に触れてしまう。


「あ――」



すみません、と顔を真っ赤にする生王に対して、女性は微かに微笑んだ。


「よろしかったら、お茶でもいかがですか?」


「え?」


「こうしてお会いしたのも何かの縁ですし。
私、外国から戻ったばかりで、まだこちらにはお友達がいないんです」


「そうなんですか…」


「あ、私ったら」

と、女性は頬を赤らめる。


「まだ名前も名乗っていませんでしたね。
私は薔子(ショウコ)と申します」



「しょうこさん…」


――綺麗な人は名前も綺麗なんだなぁ。


「僕は、生王正生といいます」


「イクルミマサオさん?」


「仕事上のペンネームなんですけど、呼びにくいですよね」



生王がポケットから取り出した名刺を手渡すと、薔子は「こういう字を書くんですね」と頷いた。



「しょうこさんは、どういう字を書くんですか?」


「私は、薔薇の薔に、子と書きます」


「素敵な名前ですね。イメージにぴったりだ」




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