● 777hitC ◇ Writer:norika

生王の前に突如として現れた女性。

漆黒の髪は天使の輪が出来る程艶やかでさらさらとしており、長さはか細いその腰に届くか届かないかと言うロングヘアー。

瞳は薄くブルー掛かった黒い不思議な色をしており、花柄のワンピースから覗く足はスラリと細長く伸び、透ける様に澄んだ綺麗な肌色をしていた。



そして彼女は何より美しかった。



古いながらも形の良い洋館に似合った洋風な目鼻の整ったはっきりとした美しい顔立ち。

大きな可愛らしい目に筋の通った高過ぎない鼻、全体的には少し小さめのふっくらとした桜色の唇。


「どうか、なさいました?」


彼女の声に生王はハッと我に返る。

初めはふいに声を掛けられた事に驚き思わず黙ってしまったが、彼女の存在を認識すると余りの美しさに今度は思わず見惚れていたのだ。

生王は軽く左右に頭を振ると、改める様に少し服を整えてから慌てて言葉を発する。


「すみません。
あの、先日僕の友人がこちらに取材に伺った時、物を忘れたのでそれを取りに来たのですが。」


その言葉を聞いた彼女は直ぐに思い当たった様子で、一度小さく納得した様に頷くと生王の前に白く細い腕を差し出した。

彼女は指を纏めて洋館の入口らしい大きな扉の方に向けると、どうぞ、と言って生王に中に入る様に促した。

すぐに了解を得られるとは思っていなかった生王は少し慌ててその指示に従い、自分の身長には似合わないサイズの扉の前に立つ。

その扉は見るからにとても頑丈そうであり、青銅で造られている事が分かる。

口に輪を咥えたライオンの取っ手が左右に一つずつ取り付けられていた。

しかし手入れが行き届いていないのか扉は変色している部分が所々にあり、片方のライオンは黒ずみ、もう片方は目の辺りが欠けてしまっている。

綺麗な女性と出会い思わず浮かれてしまった生王であったが、この洋館の佇まいはやはりとても楽しめる物では無いと思っていた。

生王がその扉の把っ手に手を掛けた時、頭に何かもやもやとした今一釈然としない感情を覚えたがそれが何か分からないまま思いきって扉を開ける。



ギギギィ………と歯切れの悪い音を発しながら、その外観とは裏腹に思っていたより呆気なくその扉は開いた。


「…ぅわ………。」



入った瞬間に生王は館の内装と広さ、また外観と同様に“いかにも”な雰囲気を醸し出していた事に思わず声を上げた。

中はまだ日も落ちていないにも関わらず薄暗くどんよりとしており、目立った汚れ等は無いが少し埃っぽく澱んでいた。

しかし大きな窓が幾つも取り付けられている為、かろうじて全体を確認する事は可能である。

後ろから女性が生王に囁く様に声を掛けた。


「靴はそのままで上がって下さい。」


ぁ…はい、とだけ生王は返事をした後、足元を見ると下足を脱ぐ様な場所は無く靴を履いたまま屋内を移動する事を認識する。

前を向くと目の前には二階へと繋がる大きな階段があり、その階段の真上にとびきり大きく豪華で派手なシャンデリアがあった。

また、今自分達が居る広間の中心と階段を上った先にも似た様な造りの一回りか二回り程小さなシャンデリアがあった。

階段の奥にも何やら部屋がある様で、左右にも大きな扉があり、部屋数が多い事が確認出来る。

探すのに一苦労しそうだと生王は考えながら、あまりこれといった物も無い殺風景な広間をぐるりと見回していた。


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