● 777hitB ◇ Writer:すし猫

弥勒院の誘いはいつも突然だ。



今日だって急に電話して来て、『暇か?』と一言。



「何だよ、いきなり」


『面白い場所に取材に行くんだけど、付き合わないか?』


「……断る」


『あ、ひょっとして原稿の〆切でも近いのか?』


「まあ、そんな所だ」


『残念だなあ、今回は“幽霊屋敷”の取材なのに。
ゲームのネタにも使えそうだろう?』


「そうだな」


『じゃあ、後でたっぷりと、その“幽霊屋敷”の話を聞かせてやるよ』


「楽しみにしてるよ」




電話を切った後で、生王は大きく溜め息を付いた。




――何が『ゲームのネタにも使えそうだろう?』だよ。


――だいたい、ミロクの誘いに乗るとろくな事が無いんだから。




――触らぬ神に祟りなし、関わらぬミロクに災いなし、だ。




体よく誘いを断れて、ほっとしている生王だった。




*******


―――翌日。



かなり浮かない顔で、“幽霊屋敷”と噂される洋館の前に佇む生王がいた。



「ここか…?」



大正時代に建てられたという洋館は、かなり重厚な建物で、それだけに余計に“いかにも”な雰囲気を醸し出している。



「まったく、何で僕が…」






――朝早くから電話して来た弥勒院は、悪びれた風もなく言った。


『お前に頼みがあるんだ』


「……何?」


『昨日、“幽霊屋敷”に取材に行くって言っただろう?』


「ああ」


『実は、そこに忘れ物をして来たみたいなんだよ』


何となく、嫌な予感がする。


『悪いんだけど、俺の代わりに取りに行って来てくれないか?』


「は?何で僕が?」


『自分で行くつもりだったんだが、急な仕事で、今から東北に行かなきゃならないんだ』


「だったら帰って来てから取りに行けば?」


『忘れたのがライターなんだよ。あそこは空き家だし、万が一、放火の道具にでも使われたらまずいだろう?』


「そうだな…」


『そういう訳だから、頼む。屋敷の場所は地図をFAXで送るから』


「え、ちょっと、ミロク!」



ツーッツーッツーッ……。





そんな訳で、結局は“幽霊屋敷”に来る羽目になってしまった。



「さっさとライターを拾って帰ろう」

と錆び付いた門を開けて、屋敷の庭へ入って行く。


「屋敷の中に落としたって言ってたけど」



長い間空き家になっているという割には、さほど荒れていない。



どこかの不動産会社が管理でもしているのだろうか。



「やっぱり何だか不気味だなあ…」



大きく深呼吸をして、ドアの取っ手に手をかけた瞬間。



「――あの」



「ひ、ひぃー!?」



「家に、何かご用でしょうか?」



「へ――?」



生王が恐る恐る振り向くと、花柄のワンピースを着た若い女性が立っていた。





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