● 777hit@ ◇ Writer:すし猫
―――鞠浜市鞠浜台。
―――癸生川探偵事務所。
お土産のシュークリームを手に、矢口床子が訪ねて来た。
「こんにちは〜」
「あら、知床さん、いらっしゃい」
「取材で近くに来たから、遊びに来ちゃった。
はい、これ、お土産」
「ありがとうございます。紅茶を入れて来ますね」
と、伊綱はキッチンに立った。
「それとね、伊綱ちゃん…」
「何ですか?」
「私は矢口よ!やーぐーち!」
毎度お決まりの台詞を言ってから、矢口はソファに座った。
「伊綱ちゃん、一人なの?」
「先生なら、奥の部屋で寝てますよ」
「生王さんは?」
「え?」
ああ、と伊綱は少し考える。
「そう言えば、ここ1週間ばかり姿を見てないですね」
「ふーん」
「生王さんに何か用事でもあるんですか?」
「用事っていうか、ちょっと気になる事があって」
何やら意味深な言い方。
――気になる?
――まさか、矢口さん、生王さんみたいなのがタイプだったとか?
そんな伊綱の考えを読んだかのように、「ちょっ…そういう意味の『気になる』じゃないからね!」と釘を刺す。
「ですよねえ。
はい、紅茶をどうぞ」
「ありがとう」
「いくら何でも、それはあり得ないですよね」
「生王さんていい人だけど、恋愛対象にはならないわよね」
「あはは、確かに」
いくらこの場に本人がいないとはいえ、酷い言われようだ。
今頃、生王はくしゃみをしているかもしれない。
「気になる事っていうのはね」
と、矢口は紅茶を一口飲んだ。
「3日ぐらい前かなあ?
鞠浜駅前で生王さんを見かけたんだけど、ちょっと様子が変だったのよ」