● 君が居ないと笑えない M
不思議に思う人々が生王達を見たがそんな事は意に介さず癸生川は続けた。
「きっと君は“人が残った者に何かを与える事”と考えて居るに違いない。
確かにそうだ。
けどそれは“悲憤”や“憎悪”なんかじゃない。
“人の死”が人に与える物は“生きている事の価値”なんだ。」
ハッとして生王は顔を上げる。
「その人が身近であればある程、自分に与える影響力は強いはずだ。
事件に巻き込まれたにせよ、事故に遭ってしまったにせよ、或いは何らかの理由で自ら絶ったにせよ。
居なくなって行ってしまった人達は僕等に“生きている価値”を与えてくれる。
自らの命と引き換えにその人達は人生で培われた経験を改めて僕等に教えてくれる。
自分の過ちを正す考えかもしれないし、深い悲しみから乗り越える方法かもしれない。
或いはそれはほんの些細な事かもしれない。
笑ったり、怒ったり、泣いたり…ただ普通の事。
けれどそんな些細な事が大切だったりするんだよ。」