● 君が居ないと笑えない H
「どうぞ掛けて下さい。」
伊綱は事務所に入ると電灯を点け、コートを手早くハンガーに掛けながら生王にソファーに座る様促した。
一方生王は玄関で立ったまま、一声掛けてから帰ろうとして居た。
「今紅茶淹れますね。」
「いやっ!
悪いけど僕は帰り
「私の淹れた紅茶が飲めないって言うんですか?」
………飲ませて頂きます。」
生王の返事を聞いて満足げに笑うと伊綱はエアコンのリモコンを少し操作した後、奥へと消えた。
―――何だか、結局彼女のペースに流されちゃったな。
そんな事を考えて居ると“バタンッッ!!!”と物凄く大きな音を立ててから扉が勢いよく開いた。
驚いた生王は目を見開いたまま暫く声も出せずに硬直して扉の方を見て居ると、くるくると華麗に回転しながら長身のボサボサ頭の男が出て来た。
すると突然高速回転しだしたかと思うとピタリと生王の前で止まり、ビシリと生王の顔面を指差して喋り出した。