● 君が居ないと笑えない G
「伊綱さん、せっかく貸して貰いましたけど、使うのもったいなくて使えないんでお返しします。」
どうもありがとうございました、と言いながら彼女に借りたハンカチを手渡すと、立ち去ろうとする生王に、あっ!!、と伊綱が大きな声を上げる。
不思議に思い、思わず彼女の方を見ると伊綱が生王の腕を突然掴んで有らぬ方向へと歩き出した。
不意に引っ張られた為、よろけながら伊綱に不本意ではあるが連れて行かれる生王は慌てて喋り掛ける。
「あのっ、伊綱さん。
僕はもう帰りますんで…。」
だが彼女は全く生王の言葉を聞かず通りをどんどん進んで行く。
振り解こうにも案外力があって―――先程から実に外見とは異なるのだ―――そのままずいずいと引っ張られて行くと見馴れた景色に出る。
―――ここは……鞠浜台駅。
ここまで来ると彼女が自分を何処に連れて行こうとして居るかは大体見当が付いたが、何故自分をそこに連れて行こうとして居るのかは分からなかった。