● 君が居ないと笑えない E
僅かばかり通る人々が不思議そうに生王を見ている事を頭の片隅で分かっては居たが、生王はただただその場で泣きじゃくった。
「沖村さん…?」
ふと自分の名前を呼ばれた気がして生王は我に返る。
―――以前の勤め先の同僚かもしれない…。
この近辺は前職場の近場なので考えてみれば当然の事だった。
なのに子供の様に泣き出した自分を恥ながら、少し冷静になった頭で涙をコートの袖で拭う。
その後、生王は慌てて振り返るとそこに立って居たのは小柄な女性。
「やっぱり沖村…ぁ、今は生王さんでしたか。」
にっこりと笑ったその女性は奇しくも“彼女”…澄佳の事件を解決に導いてくれた探偵の一人だった。
彼女はハンカチを生王に渡すとにこりと笑ったままこう述べた。
「これで涙拭いて下さい。」