● 君が居ないと笑えない D

その声は何処か現実味を帯びてはいなくて、酷く遠くから聞こえる…まるで幻聴の様だった。

実際は自分の横を通り過ぎる人々の声なのだからそんなはずはないのだが、生王にはそう感じた。



気付けば生王は河川敷に居た。

吹き荒ぶ中、薄着にコートを羽織っただけの生王は体温がどんどん奪われていったが気にせずその場に腰を下ろした。

ふわりと、けれども草独特の少し湿った様な感覚に何かを感じて生王は瞼を閉じる。



思い出されるのは“彼女”との美し過ぎる思い出。

そして次に思い出されたのは吐き気がする程の苦く重たく冷たい感情。





“死”とは決してこの世から全くの存在が無くなるという意味じゃない。

“死”は生き残った人々に多くの感情を与え残すもの。





“死”は確かに此処に―――存在している―――







ここまでなるのは久しぶりだった。

生王は人目も気にせず、嗚咽を堪える事もせず泣き出して居た。


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